過眠症の概念
- 過眠症とは、①本来起きて活動している日中の時間帯に慢性的に強い眠気が生じる(居眠りしてしまうこともある)、②年齢から予想される平均的な夜間の睡眠時間をはるかに超えるような長時間の睡眠を必要とする、といった症状を招く原因となる疾患の総称です。
- 睡眠障害国際分類では、「中枢性過眠症(概日リズム睡眠障害、睡眠呼吸障害、その他の夜間睡眠障害による過眠は除く)」に記載されています。
中枢性過眠症群
- ナルコレプシー
- ナルコレプシータイプ 1
- ナルコレプシータイプ 2
- 特発性過眠症
- クライネ-レビン症候群
- 器質性過眠症
- 身体疾患による過眠症
- 非器質性過眠症
- 薬物または物質による過眠症
- 精神疾患に関連する過眠症
- 睡眠不足症候群
- 孤発症状と正常範囲の異型
- 長時間睡眠者
hypersomnia とhypersomnolence の違い
用語 | 訳語 | 使い分け |
---|---|---|
hypersomnia | 過眠症 | 特発性過眠症など、個別の睡眠障害に言及する際に用いられる。 |
hypersomnolence | 過眠症状 | 日中の過度の眠気を記述するのに用いられる。 |
注)夜間の不眠を生じる疾患は、続発的に日中の「眠気・眠気症状」の原因となる可能性があります。よって「(中枢性)過眠症」ではなくても、症状としての「日中の過眠」の原因となる疾患・病態は多数存在します。たとえば慢性的な不眠症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群をはじめとした睡眠呼吸障害、レストレスレッグス症候群(RLS)、周期性四肢運動障害(PLMD)などは、続発性(二次性)の過眠症状を起こす原因となり得ます。
過眠症の症状(共通)
日中の眠気
日中の眠気は、日中の主要覚醒時間帯中に目を覚まし注意を保つことができなくなり、結果として、耐えがたい睡眠欲求のある時間が生じたり、思わずうとうとしたり眠り込んでしまうことと定義されています。
睡眠発作
- 眠気の強さは人それぞれで、座っていて能動的な関与がほとんど必要とされない、退屈で単調な状況で生じやすい傾向があります。
- 眠り込む前に眠気が強まることに気づく患者もあれば、ほとんどあるいは全く眠気の前駆症状なしに眠り込む患者もいます。
- 過眠症患者は、眠気に起因する自動車事故を起こすことがあります。
過眠症の種類
さまざまな眠気の特徴
特発性過眠症 | 毎日の総睡眠時間が大幅に増加しますが、その睡眠には真の回復感を伴いません。 |
ナルコレプシー | 短時間の昼寝で眠気を一時的に緩和できますが、まもなく再出現する、あるいはいったんやめた日中の昼寝が再開するという形で、眠気が現れる場合があります。 |
幼児 | 夜間睡眠が非常に長くなる、あるいはいったん卒業した日中のお昼寝習慣が再開するという形で、眠気が現れる場合があります。 |
小児 | 逆説的に不注意や情緒不安定、異常に活発な行動を呈したり、学業成績が低下したりする場合もあります。 |
過眠症の検査
日中の眠気の強さは、
を用いて定量化できます。これらの尺度は、必ずしも常に相関するわけではなく、適切な臨床的判断のもとに使用しなければなりません。臨床場面に適用する際には、睡眠不足と概日リズムの影響を受けやすい、夜通し起きて日中に眠る生活習慣の人々において、MSLTに診断検査の妥当性は確認されていません。また、MSLTが午前8時から午後18時の時間帯外に行なわれる場合、睡眠潜時の正常と異常の範囲は確立されていません。6歳未満の小児に対しては、基準値は得られていません。
反復睡眠潜時検査(MSLT)
静かな状況で眠り込む生理的傾向を測定します。中枢性過眠症群を診断することが目的の場合には、米国睡眠医学会(AASM)の実践指針に定められた標準的な手順に従って、MSLTを行うべきです。具体的にはMSLT前の1週間、特に前夜は、患者にできるだけ多く眠るよう促すべきです。睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)の患者では、起床時刻と引き続くMSLT開始時刻を遅らせることが適切な場合もあります。十分な睡眠がとれていることを、MSLT前の1〜2週間の睡眠日誌によって確認すること、そして可能な限りアクチグラフ検査によっても確認することが強く推奨されます。MSLTの平均睡眠潜時は連続変数と考えるべきで、一般に5分未満であることが過度な眠気の指標と考えられ、10分を超えると正常な覚醒水準を示すと考えられます。ここでは、MSLT平均睡眠潜時が8分未満であること=診断目的での過度な眠気の定義とします。ナルコレプシー患者の約90%は平均睡眠潜時がこの値未満であり、これがナルコレプシーの診断には最良のカットオフ値であることが示されています。MSLT中に複数の睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)を認めることは、平均睡眠潜時が8分以下であることよりもナルコレプシーに特異的な所見です。ただし、SOREMPは睡眠不足症候群や概日リズム障害(DSWPDや交代勤務障害を含む)、睡眠関連呼吸障害(SRBD)、時には健常者にもみられる場合があります。患者の病歴と日中の眠気の訴えに照らして、MSLTの結果を慎重に解釈すべきです。
覚醒維持検査(MWT)
日中暗くした静かな環境で覚醒状態を維持する能力を測定するもので、通常は治療への反応性を評価するために実施されます。診断目的で用いるべきではありません。
24時間連続睡眠記録、あるいは少なくとも1週間のアクチグラフ記録は、特発性過眠症患者の診断に有用な場合があります。中枢性過眠症群と診断されるすべての患者において、物質や治療薬の使用だけでなく、その他の睡眠障害、身体疾患、精神疾患の合併について再検討がなされるべきです。
過眠症の分類
過眠症の診断分類には、さまざまな種類があり、それぞれの基準によってカテゴリ分けが異なります。また、同じ診断分類でも、最新の研究を反映して、版は常に改訂が重ねられています。現在、臨床の現場では、睡眠障害国際分類(ICSD)が世界標準となっていますが、行政や医療など正式な手続き上は、国際疾病分類(ICD)に従います。どれが正しい、間違っている、と議論するようなものではありません。診断分類によっては、「ナルコレプシー」と「過眠症」を別の疾患と定義する場合もあります。
ICD | DSM | ICSD | |
---|---|---|---|
最新版 | ICD-10 | DSM-5 | ICSD-3 |
最新版 発行年 | 2022年 ※日本ではICD-10(2013年版)に準拠 | 2013年 | 2013年 |
作成機関 | WHO 世界保健機関 | APA 米国精神医学会 | AASM 米国睡眠医学会 |
対象 | 疾病全般 | 精神障害 | 睡眠障害 |
目的 | 医学的・行政的に使用 | 医学的に使用 | 医学的に使用 |
さまざまな診断分類を加味して、ざっくりカテゴリ分けすると、過眠症は以下のような位置づけになると思います。
睡眠障害
┣━不眠症
┣━過眠症
┃┣━ナルコレプシー
┃┃┣━ナルコレプシータイプ1
┃┃┗━ナルコレプシータイプ2
┃┣━特発性過眠症
┃┣━クライネ・レビン症候群(反復性過眠症)
┃┣━睡眠不足症候群
┃┣━器質性過眠症(身体疾患による過眠症)
┃┣━非器質性過眠症(精神疾患に関連する過眠症)
┃┗━ロングスリーパー
┗━その他の睡眠障害
過眠症の診断
過眠は、日常生活でも誰でも経験する症状ですが、仕事や学業の継続困難など、社会生活に支障をきたすような場合には、病的であると考えられます。
過眠症セルフチェック
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※これは、医療従事者が問診によって鑑別診断を行うための診断フローチャートをやさしい表現に直したものです。自己診断の参考にしていただいても構いませんが、質問内容としては不十分であることをご理解ください。例えば、「十分な睡眠時間をとっていますか?」という質問に対して、睡眠不足であるにもかかわらず、現在の睡眠時間が十分であると誤認している患者は、「はい」と答えます。「周期的に症状がおこりますか?」などの質問も、「周期」の定義が不明確です。これらはあくまで、患者の自己申告に依らず、医師が問診で確認すべき項目のチェックリストであり、基準が曖昧な点については、診察の過程で掘り下げて確認してください。
過眠症の治療
①治療に必要な基礎知識
- 日中の眠気が主訴であっても、それが中枢性過眠症であるのか、睡眠の質・量を低下させたり不眠を生じる疾患・病態からの続発的な過眠症状なのかといった原因によって、その治療・対応方法は全く異なるという点に注意してください。
- 過眠症状を訴える患者において、症状を起こしている原因(疾患)は一つとは限らないので、何か一つ確定診断がついても他の疾患・病態の併発を常に考えておく必要があります。たとえば閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は有病率が高いため、他の過眠(症)に併発することがしばしばみられます。
②睡眠医療認定施設との連携
- ナルコレプシーや特発性過眠症など、診断基準上、PSG、MSLTが必須となる疾患があります。よって中枢性過眠症の精査・確定診断はPSG、MSLTが可能な睡眠医療認定施設(A型)が担い、初期の治療導入後の長期的な継続治療は一般医(GP)で行っていくような体制の確立が求められます。
- またナルコレプシーではOSASやPLMDの合併が少なくありません。このため情動脱力発作を伴うナルコレプシーでも、正確な確定診断・鑑別診断や合併症の確認のためにPSG、MSLTを行うことが望ましいのです。
③非薬物療法
- 睡眠不足は日中の眠気を悪化させるので、まずは一般的な睡眠衛生指導を行い、規則的かつ十分な夜間睡眠を確保することが原則です。
- ナルコレプシーでは、昼休みなどに定期的に短時間(30分以内)の仮眠をとることが、午後からの眠気の軽減に有効です。
④薬物療法(過眠症治療薬)
一般名 商品名 | 剤形 用量 | 特徴 |
---|---|---|
モダフィニル モディオダール® | 錠:100mg ※一日1回100~300mgを朝に経口摂取 | 覚醒効果があるので不眠に注意し、夕刻以後の服用は原則として避けること。 |
メチルフェニデート リタリン® | 錠:10mg 散:1% ※一日10~60mgを1~2回(朝・昼)に分けて服用 | 覚醒作用があるため夕刻以降の服用は避ける。本剤の投与は、ナルコレプシーの診断・治療に精通し、薬物依存を含む本剤のリスクなどについても十分に管理できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ行うとともに、それらの薬局においては、調剤前に当該医師・医療機関を確認したうえで調剤を行うこと。併用禁忌薬:MAO-B阻害セレギリン(エフピー®)。 |
ぺモリン ベタナミン® | 錠:10mg, 25mg, 50mg ※ナルコレプシー、ナルコレプシーの近縁疾患には通常成人一日20~200mgを朝食後・昼食後の2回に分割経口摂取 | 投与15~30分で一過性に逆説的傾眠を生じることがある。覚醒作用があるため夕刻以降の服用は避ける。依存性が非常に高いなど、本剤のリスクを服用前に患者に十分説明する必要がある。重篤な肝障害を発現して死亡例が報告されているため、定期的な血液検査が必要。 |
出典
- 日本睡眠学会診断分類委員会.睡眠障害国際分類.第3版,株式会社ライフ・サイエンス,2010年07月,296
- 日本睡眠学会診断分類委員会.睡眠障害国際分類.第2版,医学書院,2018年07月11日,