
ICD-10における睡眠・覚醒障害の分類は、睡眠障害を器質性・非器質性に分けてコードするという構造になっています。
第5章 精神及び行動の障害 | 第6章 神経系の疾患 |
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生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 F51:非器質性睡眠障害 F51.1:非器質性過眠症 | 挿間性及び発作性障害 G47:睡眠障害 G47.1:過度の傾眠[過眠症] G47.4:ナルコレプシー及びカタプレキシー |
ICDでは歴史的に、器質性の有無によって、神経疾患と精神疾患を区別して分類してきました。そのためICD-10では、睡眠障害が「精神および行動の障害」の大分類(Fコード)と、「神経系の疾患」の大分類(Gコード)に、別々に分かれて診断されるという構造的欠陥が生じてしまいました。睡眠・覚醒障害を、器質性と非器質性に区別する医学的根拠も、臨床的妥当性もありません。
睡眠医療の現場では、ICD-10診断は保険病名としてのみ用いられ、実際の診断や治療方針決定はICSD-3に基づいて行われています(疾患概念の明確化を反映して、睡眠障害国際分類は2回の改訂を重ねており、ICD-10はますます役立たないものになっています)。
睡眠医療の現場でも、同じ症状なのに、自立支援を使えたり使えなかったりする、という運用上の問題点が認識されています。
このICD-10のもたらす混乱により、睡眠・覚醒障害患者が被る最大の不利益は、ICD-10コードが器質性睡眠障害(G47)となると、自立支援医療(精神通院医療)の対象から外れてしまう点です。睡眠・覚醒障害患者の中にも、精神疾患と同等以上に深刻な生活障害をきたす例があるにもかかわらず、ICD-10の分類体系事態の欠陥により、立脚する諸制度(自立支援法など)の運用に問題を抱えています。
睡眠・覚醒障害の一部は、精神障害と類似した深刻なQOL障害を伴います。ICD-11時代の自立支援法の適応は、精神と神経の二元論ではなく、生活障害度に応じた判断になることを期待します。
第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99)<Mental and behavioural disorders>
本章は,次の中間分類項目を含む:
生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F50-F59)<Behavioural syndromes associated with physiological disturbances and physical factors>
- F51:非器質性睡眠障害<Nonorganic sleep disorders>
- 多くの場合,睡眠障害は他の精神的又は身体的障害の症状の一つをなしている。ある患者に見られた睡眠障害が独立した状態なのか,それとも本章又は本章以外の章に分類されている別な障害における一特徴をなすものにすぎないのかは, 診察時の治療的な考察や治療の優先度にもとづくと同様に,その臨床的なあらわれかたや経過にもとづいて決めなければならない。一般的に,もし睡眠障害が主訴の一つであり,しかもそれがそれ自体における一病態をなすものと認められれば,その症例にかかわる精神病理や精神生理を記述している他の関連診断名に併記して本コードを用いるべきである。
- 本項目は, 情緒的な成因が一次性の要因をなすものとみなされ, しかも他に分類される明白な身体的障害によらない睡眠障害のみを包含する。
- 除外:
- 睡眠障害(器質性)(G47.-)
- F51.0:非器質性不眠症
- 不眠症は,睡眠が量的質的に不十分な状態で,それがかなりの期間にわたり持続するものをいい,入眠困難,睡眠維持の困難,早期の終末覚醒が含まれる。不眠症は,多くの精神的身体的障害に見られる普通の症状の一つであり,それが臨床的像を支配している場合に限り,基礎障害に追加してここに分類すべきである。
- 除外:
- 不眠症(器質性)(G47.0)
- F51.1:非器質性過眠症
- 過眠症は昼間の過度の眠気及び睡眠発作(睡眠量の不足にもとづくものではない)として,又は,覚醒の際には完全に目覚めるまでの移行が長引いている状態として定義される。器質的要因が見られない場合,過眠症は通常は精神障害に関連して生じてくる。
- 除外:
- 過眠症(器質性)(G47.1)
- ナルコレプシー(G47.4)
- F51.2:非器質性睡眠・覚醒スケジュール障害
- 個人の睡眠・覚醒スケジュールと,その個人にとっての環境からみて望ましい睡眠・覚醒スケジュールとが同期しなくなり,不眠症又は過眠症の訴えがある場合である。
- 下記の心因性反転:
- 概日
- 夜間相}リズム
- 睡眠相
- 除外:
- 睡眠・覚醒スケジュール障害(器質性)(G47.2)
- F51.3:睡眠時遊行症[夢遊病]
- 睡眠現象と覚醒現象とが結合してあらわれている変容した意識状態である。睡眠時遊行症のエピソードの間は,患者は寝床から起き上がっている。通常は夜間睡眠時の最初の3分の1の間に生じ,患者は歩き回り,注意力,反応性及び運動能力は低い水準を示す。目覚めた後,そのできごとは憶えていないことが多い。
- F51.4:睡眠時驚愕症[夜驚症]
- 大きな叫び声,体動,激しい自律神経症状表出に関連した著しい驚愕及び恐慌<パニック>の夜間エピソードである。通常は恐怖の叫びとともに夜間睡眠時の最初の3分の1の間に生じ,患者は起き上がるか立ち上がる。逃げようとするかのようにドアに突進することがしばしばあるが,部屋から出て行くことはあまりない。このできごとは回想されることがあってもそのうちのごく限られたものにすぎない(通常は心的イメージの一,二の断片のみ)。
- F51.5:悪夢
- 悪夢は不安又は恐怖を伴う夢体験であり,夢内容のきわめて詳細な点まで回想されうる。この夢体験はきわめてなまなましいもので,通常は生存や安全や自尊心が脅威にさらされるという主題を持つ。全く同一か又はよく似た恐ろしい悪夢の主題が,繰り返し生ずることがしばしばある。典型的なエピソードの間には,かなり強い自律神経症状表出があるが,しかし叫び声や体動は認められない。目覚めると,患者は急速に注意力と見当(識)を取り戻す。
- 夢不安障害
- F51.8:その他の非器質性睡眠障害
- F51.9:非器質性睡眠障害,詳細不明
- 情緒性睡眠障害NOS
第Ⅵ章 神経系の疾患(G00-G99)<Diseases of the nervous system>
本章は,次の中間分類項目を含む:
挿間性及び発作性障害(G40-G47)<Episodic and paroxysmal disorders>
- G47:睡眠障害<Sleep disorders>
- G47.0:睡眠の導入及び維持の障害[不眠症]
- G47.1:過度の傾眠[過眠症]
- G47.2:睡眠・覚醒スケジュール障害
- 遅発性睡眠相症候群
- 不規則睡眠・覚醒パターン
- G47.3:睡眠時無呼吸
- 睡眠時無呼吸:
- 中枢性
- 閉塞性
- 除外:
- ピクウィック<pickwick>症候群(E66.2)
- 新生児睡眠時無呼吸(P28.3)
- 睡眠時無呼吸:
- G47.4:ナルコレプシー及びカタプレキシー
- G47.8:その他の睡眠障害
- クライネ・レヴィン<Kleine-Levin>症候群
- G47.9:睡眠障害,詳細不明
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引用文献
精神神経学雑誌(2022) 第124巻 第3号「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ:各論⑫睡眠・覚醒障害(Sleep-wake Disorders)本多真(https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1240030192.pdf)