
同義語
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特発性過眠症 - 特発性中枢神経性過眠症
- 長時間睡眠を伴う特発性過眠症
- 長時間睡眠を伴わない特発性過眠症
※ICSDの改訂により、診断名における長時間睡眠を伴う/伴わないの区別はなくなりました。
診断基準
基本的な特徴
- 日中の過度の眠気が、情動脱力発作なしで生じること
- 反復睡眠潜時検査(MSLT)と前夜の睡眠ポリグラフ記録を合わせて睡眠開始レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)は1回以下であること
- 他の症状では十分に説明できないこと
- 眠気を引き起こすその他の障害、特に睡眠不足症候群を注意深く検討し除外すること
- MSLTで平均睡眠潜時が8分以下であること、あるいは睡眠ポリグラフ検査か手首でのアクチグラフ検査により24時間の総睡眠時間が660分(※11時間)以上であることによって、過眠症状が存在する客観的証拠が示されること
睡眠酩酊 | 遷延する重度の睡眠慣性で、遷延する覚醒困難で覚醒する際に何回も再び眠り込み、易刺激性、自動症、混乱を伴う症状です。睡眠酩酊は、異なる症例集積研究において、特発性過眠症患者の36%から66%に存在すると報告されています。患者は、典型的には目覚まし時計では簡単に目覚められず、目覚めるための特別な装置や手続きを用いることがよくあります。昼寝は一般的には長く、しばしば60分を超え、46%から78%の患者は起きた時にすっきりしないと訴えます。 |
長時間睡眠 | 睡眠ポリグラフ記録での睡眠効率は、通常高い(平均90%から94%)とされています。自己報告の総睡眠時間は対照群より長く、少なくとも患者の30%は10時間以上です。 |
随伴特徴
自律神経系の機能不全を示唆する随伴症状がみられることがあります。この症状には頭痛、起立性障害、体温調節異常の自覚、そして末梢血管性症状(手足の冷えを伴うレイノー現象)が含まれます。
睡眠麻痺や入眠時幻覚を訴える場合もありますが、その頻度ははっきりしません(異なる症例集積研究で4%〜40%)。
臨床的・病態生理学的亜型
2005年の睡眠障害国際分類第2版では、特発性過眠症を「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」と「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」という2つの障害に分類していました。特発性過眠症はおそらく不均質な状態であり、現在のところその病態生理はわかっていません。しかし最近の研究によれば、夜間睡眠の長さで特発性過眠症を区分する妥当性はないことが示唆されています。
睡眠障害国際分類第2版 (ICSD-2) |
睡眠障害国際分類第3版 (ICSD-3) |
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夜間睡眠時間が10時間以上の患者と10時間未満の患者を比較したところ、エプワース眠気尺度(ESS)、反復性睡眠潜時検査(MSLT)における平均睡眠潜時、あるいは睡眠酩酊、爽快感のない昼寝、入眠時幻覚、睡眠麻痺を伴う割合には差がみられませんでした。相違があるとされたのは、長時間睡眠を伴う群は、やや若く、痩せており、ホルン・エストベリ朝型夜型尺度の得点が低く夜型で、睡眠効率がわずかに高いことだけです。
診断基準としてMSLTの平均睡眠潜時を使わなければ、睡眠潜時の分布は単峰型であり、独立したサブタイプが存在しないことを示唆しています。
さらに、アクチグラフ検査研究から、特発性過眠症の患者は自らの睡眠時間を平均0.99時間(※59.4分)過大評価する傾向があると示され、それゆえ睡眠時間が長いか相対的に短いかを診断区分の基本的基準とすることは不正確とされました。臨床医は、睡眠持続時間を重要な臨床特徴として注目しようとするかもしれませんが、上述の注意点は必ず考慮してください。
将来、特発性過眠症を異なる状態として区分するためには、生物基盤の理解が進むのを待たなければなりません。
患者統計(有病率)
有病率や発生率は知られていませんが、女性に高い有病率を示唆する研究があります。
素因・誘因(原因)
ナルコレプシーとは対照的に、ヒト白血球抗原(HLA)との関連が知られておらず、一致した発症因子も同定されていません。
家族内発現形式(遺伝)
過眠症の家族素因は報告されていますが、厳密な調査はなされていません。
発症・経過・合併症
①平均発症年齢
16.6歳から21.2歳
②経過
いったん症状ができあがると、一般的には症状は不変で長期間持続します。しかし、14%に自発的な寛解があると報告するひとつの症例集積研究もあります。
③合併症
合併症は主に、社会的、職業生活上のものであり、職場や学校での成績の低下、収入の減少、解雇などです。
発達上の問題
特発性過眠症は思春期に高い頻度で発症します。この年齢群において、過眠症状をきたす他の原因、睡眠・覚醒相後退症候群(DSWPD)、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)、睡眠不足症候群、そして違法薬物使用を除外することが肝心です。
ナルコレプシー発症の早期には、反復睡眠潜時検査(MSLT)で睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が存在しない場合があります。そのため、あとでナルコレプシー2型として再分類されることが必要となる患者もあり得るでしょう。
もし、小児や思春期例で24時間の総睡眠時間の延長を特発性過眠症の診断確認に用いるのであれば、睡眠時間の基準値は、発達段階に伴う睡眠時間の変化に合わせて変化させる必要があるかもしれません。
年齢 | 診断基準の目安 |
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小学生(6〜13歳) | 13時間以上 |
中高生(14〜17歳) | 12時間以上 |
成人(18〜64歳) | 11時間以上 |
病理・病態生理
特発性過眠症の病態生理は知られていません。
- 脳脊髄液(CSF)中のモノアミン代謝産物を測定した神経化学的研究の結論は出ていません。
- 特発性過眠症患者のCSFオレキシンA濃度は正常です。
- CSFヒスタミン濃度はナルコレプシーと特発性過眠症で低いと報告されましたが、最近の研究ではこの知見は確認されませんでした。
客観的所見
睡眠ポリソムノグラフ検査 | ノンレム睡眠とレム睡眠の割合は期待される通りで、レム睡眠潜時は正常であるのが通常です。総睡眠時間はしばしば延長します |
睡眠時無呼吸 | 存在しないか、特発性過眠症の診断前に十分に治療されていなければならず、著しい呼吸努力関連性の覚醒反応を除外するように、特に注意を払う必要があります。 |
反復睡眠潜時検査(MSLT) | 1回を超える睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が存在しないこと(もし前夜の睡眠ポリグラフ記録でSOREMPがあれば、MSLTでは1回もみられないこと)が必要です。MSLTでの平均睡眠潜時は対照群より短いのが普通ですが、ナルコレプシー患者の大部分より長く、2つの大規模な研究では、睡眠潜時の平均値は8.3分と7.8分でした。 |
MSLTの平均睡眠潜時が8分を超える患者では、睡眠不足を補正し、それ以外の睡眠障害を除外し、MSLT測定の必要条件に合わせて鎮静系薬物を中止(ナルコレプシーの「客観的所見」の項を参照)したうえで、長時間の睡眠測定を睡眠ポリグラフ検査(24時間)または手首のアクチグラフ検査(睡眠制限なしで7日間)によって行うべきです。
成人を診断する際には、24時間の総睡眠時間(主要な睡眠時間帯と昼寝を加えたもの)が、660分(※11時間)以上でなければなりません(24時間睡眠ポリグラフ検査により、対照群と比較して、特発性過眠症を診断する妥当性は確認されていますが、7日間のアクチグラフ検査による診断は、まだ妥当性が確認されていないことに留意すること)。
鑑別診断
睡眠関連呼吸障害 | 特発性過眠症は、(無呼吸症や低呼吸より)特に呼吸関連覚醒がある場合に、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)と紛らわしいことがあります。 |
ナルコレプシー2型 | 睡眠潜時反復検査(MSLT)あるいは前夜の睡眠ポリグラフ記録における計2回以上の睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が出現する点で、特発性過眠症と鑑別されます。 |
睡眠不足症候群 | 患者の睡眠時間を検査前に延長させて注意深く除外しなければなりません。 |
身体疾患による過眠症 | 除外には、病歴情報、理学的検査、そして必要と考えられれば、脳画像検査も含む臨床検査が役立ちます。特に外傷後の過眠症状、睡眠時無呼吸を十分に治療した後の残遺性の過眠症状、痛みによる睡眠分断化は、特発性過眠症と類似した症状を示すことがあります。 |
薬物または物質による過眠症 | 薬物または物質による過眠症も考慮し、もし臨床的な問題がなければ、原因となりうる物質を中止して、除外しなければなりません。 |
精神疾患に関連する過眠症 | うつ病が最も有名ですが、精神科的病態を伴う患者で考慮すべきです。症状が日々変動し、夜間睡眠の悪さと関連しやすい点は異なりますが、過度の眠気と遷延する睡眠の訴えは、特発性過眠症の患者の訴えとかなり似ることがあります。精神疾患に関連する過眠症患者では、MSLTの平均睡眠潜時の短縮はみられません。 |
慢性疲労症候群 | 睡眠や休養をとっても解消しない持続性あるいは反復性の疲労が特徴です。患者は日中の過度の眠気より、明らかに疲労を訴え、MSLTの平均睡眠潜時は正常です。 |
ロングスリーパー | 必要なだけ眠らせれば、気分がすっかり爽快となって日中の眠気を感じません。特発性過眠症の患者は、前夜の睡眠持続時間にかかわりなく眠気を感じるのとは対照的です。 |
未解決事項と今後の課題
特発性過眠症の神経生物学に関する知識は不足しています。この領域における研究進展とともに、臨床的特徴と治療反応性についてのより正確な評価が必要です。
出典
- 米国睡眠医学会. "特発性過眠症(Idiopathic Hypersomnia)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.112-115.
- Hypersomnia Foundation. "About Idiopathic Hypersomnia". Hypersomnia Foundation. February 27, 2022. https://www.hypersomniafoundation.org/ih/,.
- 内山真. "特発性過眠症". 睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会. 第3版, 東京, じほう, 2019, p.198.