特発性=とくはつせい。突然という意味の突発性(sudden)ではなく、特発性(idiopathic)は原因不明という意味です。

同義語

  • 特発性過眠症 ( とくはつせいかみんしょう )
  • 特発性中枢神経性過眠症
  • 長時間睡眠を伴う特発性過眠症
  • 長時間睡眠を伴わない特発性過眠症

ICSDの改訂により、診断名における長時間睡眠を伴う/伴わないの区別はなくなりました。

診断基準

A
耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日,少なくとも3カ月間続く。
※睡眠酩酊(遷延する覚醒困難で、覚醒する際に何回も再び眠り込み、易刺激性、自動症、混乱を伴うものと定義される)として知られる重度で遷延する睡眠慣性や、長く(1時間を超える)爽快感のない昼寝は、診断を支持するさらなる臨床的特徴である。

基本的な特徴

  • 日中の過度の眠気が、情動脱力発作なしで生じること
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT)と前夜の睡眠ポリグラフ記録を合わせて睡眠開始レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)は1回以下であること
  • 他の症状では十分に説明できないこと
  • 眠気を引き起こすその他の障害、特に睡眠不足症候群を注意深く検討し除外すること
  • MSLTで平均睡眠潜時が8分以下であること、あるいは睡眠ポリグラフ検査か手首でのアクチグラフ検査により24時間の総睡眠時間が660分(※11時間)以上であることによって、過眠症状が存在する客観的証拠が示されること
睡眠酩酊遷延する重度の睡眠慣性で、遷延する覚醒困難で覚醒する際に何回も再び眠り込み、易刺激性、自動症、混乱を伴う症状です。睡眠酩酊は、異なる症例集積研究において、特発性過眠症患者の36%から66%に存在すると報告されています。患者は、典型的には目覚まし時計では簡単に目覚められず、目覚めるための特別な装置や手続きを用いることがよくあります。昼寝は一般的には長く、しばしば60分を超え、46%から78%の患者は起きた時にすっきりしないと訴えます。
長時間睡眠睡眠ポリグラフ記録での睡眠効率は、通常高い(平均90%から94%)とされています。自己報告の総睡眠時間は対照群より長く、少なくとも患者の30%は10時間以上です。

随伴特徴

自律神経系の機能不全を示唆する随伴症状がみられることがあります。この症状には頭痛起立性障害、体温調節異常の自覚、そして末梢血管性症状(手足の冷えを伴うレイノー現象)が含まれます。

睡眠麻痺や入眠時幻覚を訴える場合もありますが、その頻度ははっきりしません(異なる症例集積研究で4%〜40%)。

臨床的・病態生理学的亜型

2005年の睡眠障害国際分類第2版では、特発性過眠症を「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」と「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」という2つの障害に分類していました。特発性過眠症はおそらく不均質な状態であり、現在のところその病態生理はわかっていません。しかし最近の研究によれば、夜間睡眠の長さで特発性過眠症を区分する妥当性はないことが示唆されています。

睡眠障害国際分類第2版
(ICSD-2)
睡眠障害国際分類第3版
(ICSD-3)
長時間睡眠を伴う特発性過眠症
  • A.患者が、最低でも3ヵ月の間、ほとんど毎日、昼間に強い眠気が生じると訴える。
  • B.患者に、面接、アクチグラフ、または睡眠日誌で記録される夜間睡眠の延長(10時間以上)が認められる。朝、または昼寝の後に起き上がるのがほとんどいつも困難である。
    C.夜間睡眠ポリグラフ検査で、日中の眠気の他の原因が除外されている。
  • D.睡眠ポリグラフ検査で、短い睡眠潜時と、主要睡眠時間の10時間以上の延長が確認される。
  • E.夜間睡眠ポリグラフ検査後にMSLTを行うと、8分未満の平均睡眠潜時が認められ、SOREMPが2回記録されることはない。長時間睡眠を伴う特発性過眠症の平均睡眠潜時は6.2±3.0分であることが確認されている。
  • F.この過眠症は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神疾患、薬物使用、または物質使用障害で説明できない。
特発性過眠症
  • A.耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3ヵ月間続く。
  • B.情動脱力発作が存在しない。
  • C.標準的な方法に従って実施された反復睡眠潜時検査(MSLT)において、睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が2回未満であること、もし前夜の睡眠ポリグラフ記録におけるレム睡眠潜時が15分以下である場合には、SOREMPが存在しないこと。
  • D.以下のうち最低ひとつが存在する。
    • 1.MSLTで平均睡眠潜時が8分以下である。
    • 2.24時間の総睡眠時間が660分以上である(典型的には12時間から14時間)。これは(慢性的な睡眠不足を補正した後に行われる)24時間睡眠ポリグラフ検査、あるいは睡眠日誌記載と併せて行う手首でのアクチグラフ検査(少なくとも7日間以上、時間制限なしで睡眠をとらせて平均する)によって確認される。
  • E.睡眠不足症候群を除外する(もし必要と判断されれば、夜間の臥床時間を増やすよう十分に試みても、眠気の改善がないことを確認する。夜間の臥床時間は、少なくとも1週間の手首でのアクチグラフ検査で確認することが望ましい)。
  • F.本疾患の過眠症状やMSLT所見は、その他の睡眠障害、身体疾患や精神疾患、薬物または物質の使用ではよく説明できない。
長時間睡眠を伴わない特発性過眠症
  • A.患者が、最低でも3ヵ月の間、ほとんど毎日、日中に強い眠気が生じると訴える。
  • B.患者の夜間睡眠は正常(6時間以上だが10時間未満)で、面接、アクチグラフ、または睡眠日誌で確認される。
  • C.夜間睡眠ポリグラフ検査で、日中の眠気の他の原因が除外されている。
  • D.睡眠ポリグラフ検査で確認される主要睡眠時間は正常である(6時間以上だが10時間未満)。
  • E.終夜睡眠ポリグラフ検査後のMSLTで8分未満の平均睡眠潜時が確認され、SOREMPが2回未満である。特発性過眠症の平均睡眠潜時は6.2±3.0分であることが確認されている。
  • F.この過眠症は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神疾患、薬物使用、または物質使用障害で説明できない。

夜間睡眠時間が10時間以上の患者と10時間未満の患者を比較したところ、エプワース眠気尺度(ESS)、反復性睡眠潜時検査(MSLT)における平均睡眠潜時、あるいは睡眠酩酊、爽快感のない昼寝、入眠時幻覚、睡眠麻痺を伴う割合には差がみられませんでした。相違があるとされたのは、長時間睡眠を伴う群は、やや若く、痩せており、ホルン・エストベリ朝型夜型尺度の得点が低く夜型で、睡眠効率がわずかに高いことだけです。

診断基準としてMSLTの平均睡眠潜時を使わなければ、睡眠潜時の分布は単峰型であり、独立したサブタイプが存在しないことを示唆しています。

さらに、アクチグラフ検査研究から、特発性過眠症の患者は自らの睡眠時間を平均0.99時間(※59.4分)過大評価する傾向があると示され、それゆえ睡眠時間が長いか相対的に短いかを診断区分の基本的基準とすることは不正確とされました。臨床医は、睡眠持続時間を重要な臨床特徴として注目しようとするかもしれませんが、上述の注意点は必ず考慮してください。

将来、特発性過眠症を異なる状態として区分するためには、生物基盤の理解が進むのを待たなければなりません。

患者統計(有病率)

有病率や発生率は知られていませんが、女性に高い有病率を示唆する研究があります。

有病率
国内外において、特発性過眠症の一般人口に対する有病率は不明です。公表文献等に基づく海外・国内における特発性過眠症の患者数については次の通り。過眠症状を訴えて睡眠障害外来を受診した症例数を比較した調査では、ナルコレプシーの10〜69%と幅のある結果が出ましたが、ICSD-2の診断分類「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」に限ると、ナルコレプシーの2.0〜4.1%、つまり、人口100万人に対し50人程度と推測されます。一方「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」の有病率については、MSLTの平均睡眠潜時8分以下という条件を外すと、ナルコレプシー比で約6割、平均睡眠潜時の条件を加えると約4割とされます。

素因・誘因(原因)

ナルコレプシーとは対照的に、ヒト白血球抗原(HLA)との関連が知られておらず、一致した発症因子も同定されていません。

家族内発現形式(遺伝)

過眠症の家族素因は報告されていますが、厳密な調査はなされていません。

発症・経過・合併症

①平均発症年齢

16.6歳から21.2歳

②経過

いったん症状ができあがると、一般的には症状は不変で長期間持続します。しかし、14%に自発的な寛解があると報告するひとつの症例集積研究もあります。

③合併症

合併症は主に、社会的、職業生活上のものであり、職場や学校での成績の低下、収入の減少、解雇などです。

発達上の問題

特発性過眠症は思春期に高い頻度で発症します。この年齢群において、過眠症状をきたす他の原因、睡眠・覚醒相後退症候群(DSWPD)、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)、睡眠不足症候群、そして違法薬物使用を除外することが肝心です。

ナルコレプシー発症の早期には、反復睡眠潜時検査(MSLT)で睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が存在しない場合があります。そのため、あとでナルコレプシー2型として再分類されることが必要となる患者もあり得るでしょう。

もし、小児や思春期例で24時間の総睡眠時間の延長を特発性過眠症の診断確認に用いるのであれば、睡眠時間の基準値は、発達段階に伴う睡眠時間の変化に合わせて変化させる必要があるかもしれません。

年齢診断基準の目安
小学生(6〜13歳)13時間以上
中高生(14〜17歳)12時間以上
成人(18〜64歳)11時間以上

病理・病態生理

特発性過眠症の病態生理は知られていません。

  • 脳脊髄液(CSF)中のモノアミン代謝産物を測定した神経化学的研究の結論は出ていません。
  • 特発性過眠症患者のCSFオレキシンA濃度は正常です。
  • CSFヒスタミン濃度はナルコレプシーと特発性過眠症で低いと報告されましたが、最近の研究ではこの知見は確認されませんでした。

客観的所見

睡眠ポリソムノグラフ検査ノンレム睡眠とレム睡眠の割合は期待される通りで、レム睡眠潜時は正常であるのが通常です。総睡眠時間はしばしば延長します
睡眠時無呼吸存在しないか、特発性過眠症の診断前に十分に治療されていなければならず、著しい呼吸努力関連性の覚醒反応を除外するように、特に注意を払う必要があります。
反復睡眠潜時検査MSLT1回を超える睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が存在しないこと(もし前夜の睡眠ポリグラフ記録でSOREMPがあれば、MSLTでは1回もみられないこと)が必要です。MSLTでの平均睡眠潜時は対照群より短いのが普通ですが、ナルコレプシー患者の大部分より長く、2つの大規模な研究では、睡眠潜時の平均値は8.3分と7.8分でした。

MSLTの平均睡眠潜時が8分を超える患者では、睡眠不足を補正し、それ以外の睡眠障害を除外し、MSLT測定の必要条件に合わせて鎮静系薬物を中止(ナルコレプシーの「客観的所見」の項を参照)したうえで、長時間の睡眠測定を睡眠ポリグラフ検査(24時間)または手首のアクチグラフ検査(睡眠制限なしで7日間)によって行うべきです。

成人を診断する際には、24時間の総睡眠時間(主要な睡眠時間帯と昼寝を加えたもの)が、660分(※11時間)以上でなければなりません(24時間睡眠ポリグラフ検査により、対照群と比較して、特発性過眠症を診断する妥当性は確認されていますが、7日間のアクチグラフ検査による診断は、まだ妥当性が確認されていないことに留意すること)。

鑑別診断

睡眠関連呼吸障害特発性過眠症は、(無呼吸症や低呼吸より)特に呼吸関連覚醒がある場合に、閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)と紛らわしいことがあります。
ナルコレプシー2型睡眠潜時反復検査(MSLT)あるいは前夜の睡眠ポリグラフ記録における計2回以上の睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が出現する点で、特発性過眠症と鑑別されます。
睡眠不足症候群患者の睡眠時間を検査前に延長させて注意深く除外しなければなりません。
身体疾患による過眠症除外には、病歴情報、理学的検査、そして必要と考えられれば、脳画像検査も含む臨床検査が役立ちます。特に外傷後の過眠症状、睡眠時無呼吸を十分に治療した後の残遺性の過眠症状、痛みによる睡眠分断化は、特発性過眠症と類似した症状を示すことがあります。
薬物または物質による過眠症薬物または物質による過眠症も考慮し、もし臨床的な問題がなければ、原因となりうる物質を中止して、除外しなければなりません。
精神疾患に関連する過眠症うつ病が最も有名ですが、精神科的病態を伴う患者で考慮すべきです。症状が日々変動し、夜間睡眠の悪さと関連しやすい点は異なりますが、過度の眠気と遷延する睡眠の訴えは、特発性過眠症の患者の訴えとかなり似ることがあります。精神疾患に関連する過眠症患者では、MSLTの平均睡眠潜時の短縮はみられません。
慢性疲労症候群睡眠や休養をとっても解消しない持続性あるいは反復性の疲労が特徴です。患者は日中の過度の眠気より、明らかに疲労を訴え、MSLTの平均睡眠潜時は正常です。
ロングスリーパー必要なだけ眠らせれば、気分がすっかり爽快となって日中の眠気を感じません。特発性過眠症の患者は、前夜の睡眠持続時間にかかわりなく眠気を感じるのとは対照的です。

未解決事項と今後の課題

特発性過眠症の神経生物学に関する知識は不足しています。この領域における研究進展とともに、臨床的特徴と治療反応性についてのより正確な評価が必要です。

治療
モダフィニル(モディオダール®︎)などの中枢神経刺激薬が眠気にはある程度有効ですが、ナルコレプシー患者に比べて効果は劣るようです。規則正しい生活習慣を送ることと、十分な睡眠をとることも重要です。

出典

  • 米国睡眠医学会. "特発性過眠症(Idiopathic Hypersomnia)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.112-115.
  • Hypersomnia Foundation. "About Idiopathic Hypersomnia". Hypersomnia Foundation. February 27, 2022. https://www.hypersomniafoundation.org/ih/,.
  • 内山真. "特発性過眠症". 睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会. 第3版, 東京, じほう, 2019, p.198.