特発性=とくはつせい。
突然という意味の突発性(sudden)ではなく、
特発性(idiopathic)は原因不明という意味です。

特発性過眠症は、毎日よく寝ても眠気が解消されないという、慢性的に眠い睡眠障害です。特発性過眠症の患者は、毎晩正常かそれより長い時間の睡眠をとっていますが、それでも日中に過度の眠気を感じます。長時間の昼寝をすることもありますが、寝起きの眠気は寝る前とさほど変わらない感じです。

特発性過眠症の症状 

特発性過眠症の主な症状は、十分な、あるいは正常より長い睡眠時間(例えば、毎晩10-11時間以上)をとっているにもかかわらず、日中に過度の眠気を感じることです。その他の症状としては、寝起きの爽快感が無い、寝ても疲れが取れない、重度の睡眠慣性/睡眠酩酊(眠りから目覚めるのが極端に困難で、強い寝ぼけ感や方向感覚の喪失などを伴う症状)などがあります。睡眠障害の無い人でも、目が覚めても二度寝したくなる感覚はありますが、特発性過眠症の人は、この睡眠から覚醒への移行がより困難で長引きます。睡眠は、脳霧(ブレイン・フォグ)を残すようで、特発性過眠症の人が起きていられる数時間の間、終始ボーッとしていることさえあります。このため、クリアな思考で、基本的な作業を行うことさえ難しかったりします。

特発性過眠症患者は、24時間のうち11時間以上眠るという方が多いようです。この病気は慢性疾患であり、症状は一生治らない可能性があります。症状を抑える有効な薬が見つからない場合、 特発性過眠症の患者さんが仕事を続け、学校に通い、結婚生活を維持し、家族や友人と満足に交流することは非常に困難となります。また、薬物療法を行っても、これらの活動に支障をきたす場合があります。

症状は多くの場合、10代半ばから後半、あるいは20代前半の若い年代で発症することが多いですが、幼少時あるいはそれより高齢で始まることもあります。症状の強さは数週間、数ヶ月、数年と波があり、女性の場合、月経直前に悪化することもあります。10-15%の患者さんでは、症状が自然に寛解することもあります。

注)自然寛解について

特発性過眠症とナルコレプシーの特徴を比較した2007年のレトロスペクティブスタディ(後ろ向き研究)では、特発性過眠症患者の寛解率は10%と報告されています。しかし、特発性という名前が示すように、特発性過眠症の根本的な原因はまだ不明であり、寛解した患者の一部または全員が、実は特発性過眠症ではなく、日中の過眠という同じ症状を持つ他の疾患(例えばクライネ・レビン症候群や伝染性単核症など)だったから、という可能性があります。特発性過眠症の正確な診断が困難な現状では、報告された寛解率は必ずしも臨床的意義のあるデータとして捉えるべきではありません。現時点では、特発性過眠症を診断するための決定的な検査はなく、治療法もありません。

睡眠は通常「深い」と表現され、睡眠からの覚醒が困難です。患者が学校や職場に時間通りに到着するためには、しばしば複数の目覚まし時計や他人に起こしてもらうことが必要でます。ナルコレプシー1型は日中の短い昼寝ですっきりするのに対し、 特発性過眠症患者では、昼寝が数時間にも及び、しかもすっきりしないことが多いようです。

特発性過眠症の症状や服薬中のお薬によっては、麻酔など、病院での治療に差し支える場合があります。

注)麻酔について

    特発性過眠症の方に特別な配慮が必要な理由

  1. 鎮静作用のある薬(オピオイドや ベンゾジアゼピン系薬剤)が、過眠症状を悪化させるおそれがあります。
  2. 「覚醒遅延」といって、麻酔からの覚醒に時間がかかる場合があります(これは健常者にもよくあることで、予後が悪いという意味ではありません)。麻酔の方法を変えることで、このリスクを減らすことができるかもしれません。麻酔科医(歯科医を含む)は、麻酔からの覚醒が困難な患者を想定して準備してください(例えば、特発性過眠症の治療にも使用されるフルマゼニルを使用するなど)。
  3. 特発性過眠症の治療に使用する薬が、麻酔薬や他の薬と相互作用してしまう可能性があります。安全な場合は、服薬を継続することが望ましいでしょう。
  4. 特発性過眠症の方は、体調管理のために、睡眠と服薬の時間を決め、できるだけ睡眠を妨げないようにする必要があります。手術や入院によって、普段の生活が大きく崩れ、せん妄に似た重度の眠気や認知機能障害を引き起こす可能性があります。事前によく話し合い、スケジュール調整や代替療法を決めておけば、服薬の中断を最小限に抑えることができます。
  5. 睡眠慣性の症状が強い方は、睡眠から目覚めるのにかなり時間がかかる場合があります。

特発性過眠症の診断

睡眠障害国際分類第2版
(ICSD-2)
睡眠障害国際分類第3版
(ICSD-3)
長時間睡眠を伴う特発性過眠症
  • A.患者が、最低でも3ヵ月の間、ほとんど毎日、昼間に強い眠気が生じると訴える。
  • B.患者に、面接、アクチグラフ、または睡眠日誌で記録される夜間睡眠の延長(10時間以上)が認められる。朝、または昼寝の後に起き上がるのがほとんどいつも困難である。
    C.夜間睡眠ポリグラフ検査で、日中の眠気の他の原因が除外されている。
  • D.睡眠ポリグラフ検査で、短い睡眠潜時と、主要睡眠時間の10時間以上の延長が確認される。
  • E.夜間睡眠ポリグラフ検査後に@@@@MSLTを行うと、8分未満の平均睡眠潜時が認められ、SOREMPが2回記録されることはない。長時間睡眠を伴う特発性過眠症の平均睡眠潜時は6.2±3.0分であることが確認されている。
  • F.この過眠症は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神疾患、薬物使用、または物質使用障害で説明できない。
特発性過眠症
  • A.耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3ヵ月間続く。
  • B.情動脱力発作が存在しない。
  • C.標準的な方法に従って実施された反復睡眠潜時検査(@@@@MSLT)において、睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が2回未満であること、もし前夜の睡眠ポリグラフ記録におけるレム睡眠潜時が15分以下である場合には、SOREMPが存在しないこと。
  • D.以下のうち最低ひとつが存在する。
    • 1.@@@@MSLTで平均睡眠潜時が8分以下である。
    • 2.24時間の総睡眠時間が660分以上である(典型的には12時間から14時間)。これは(慢性的な睡眠不足を補正した後に行われる)24時間睡眠ポリグラフ検査、あるいは睡眠日誌記載と併せて行う手首でのアクチグラフ検査(少なくとも7日間以上、時間制限なしで睡眠をとらせて平均する)によって確認される。
  • E.睡眠不足症候群を除外する(もし必要と判断されれば、夜間の臥床時間を増やすよう十分に試みても、眠気の改善がないことを確認する。夜間の臥床時間は、少なくとも1週間の手首でのアクチグラフ検査で確認することが望ましい)。
  • F.本疾患の過眠症状や@@@@MSLT所見は、その他の睡眠障害、身体疾患や精神疾患、薬物または物質の使用ではよく説明できない。
長時間睡眠を伴わない特発性過眠症
  • A.患者が、最低でも3ヵ月の間、ほとんど毎日、日中に強い眠気が生じると訴える。
  • B.患者の夜間睡眠は正常(6時間以上だが10時間未満)で、面接、アクチグラフ、または睡眠日誌で確認される。
  • C.夜間睡眠ポリグラフ検査で、日中の眠気の他の原因が除外されている。
  • D.睡眠ポリグラフ検査で確認される主要睡眠時間は正常である(6時間以上だが10時間未満)。
  • E.終夜睡眠ポリグラフ検査後の@@@@MSLTで8分未満の平均睡眠潜時が確認され、SOREMPが2回未満である。特発性過眠症の平均睡眠潜時は6.2±3.0分であることが確認されている。
  • F.この過眠症は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神疾患、薬物使用、または物質使用障害で説明できない。

特発性過眠症の診断には、過眠症状を呈する他の疾患の可能性を除外する必要があるため、臨床的判断に加え、終夜@@@@PSGと@@@@MSLTが必須です。睡眠障害国際分類第3版(@@@@ICSD-3)では、特発性過眠症の病的眠気の判定方法として、@@@@MSLTでの入眠傾向(睡眠潜時8分以下)だけでなく、24時間@@@@PSGでの総睡眠時間遷延(11時間以上)も認められるようになりました。ただし後者でも、睡眠開始時レム睡眠期(SOREMP)が2回未満であることの確認が必要なため、終夜@@@@PSGと@@@@MSLTは必須です。

診断のための追加資料→起立性調節障害について追記

特発性過眠症の有病率

国内外において、特発性過眠症の一般人口に対する有病率は不明です。公表文献等に基づく海外・国内における特発性過眠症の患者数については以下の通り。

過眠症状を訴えて睡眠障害外来を受診した症例数を比較した調査では、ナルコレプシーの10〜69%と幅のある結果が出ましたが、@@@@ICSD-2の診断分類「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」に限ると、ナルコレプシーの2.0〜4.1%、つまり、人口100万人に対し50人程度と推測されます。一方「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」の有病率については、@@@@MSLTの平均睡眠潜時8分以下という条件を外すと、ナルコレプシー比で約6割、平均睡眠潜時の条件を加えると約4割とされます。

特発性過眠症の原因

特発性過眠症は、脳と中枢神経系の障害で、その原因は不明です。複数の原因が存在する可能性があり、それぞれが特発性過眠症患者の一部分に当てはまる可能性があります。

現在提唱されている仮説の一つは、脳脊髄液中に存在する、睡眠薬や麻酔薬のような働きをする低分子が過剰に分泌されているケースがあるのではないか、ということです。この低分子の正確な組成はまだ解明されていませんが、睡眠を促す脳のメカニズムの主要な担い手であるγ-アミノ酪酸(GABA)と相互作用することがわかっています。この物質が存在すると、GABAの抑制作用と睡眠促進作用が増強されます。現在、この低分子を同定し、 特発性過眠症患者のうちどの程度の割合の人がこの物質の影響を受けているのかを明らかにする研究が進められています。

もちろん、その他のバイオマーカーや特発性過眠症の原因を示す指標となりうる物質の探索も続けられています。特発性過眠症患者の中には、生理的パターン(概日リズム、自律神経反応、睡眠中の脳活動など)が変質している人がいることが研究でわかっていますが、これらの変化の根本原因や、特発性過眠症の症状との関連性はまだわかっていません。

遺伝学的な研究は限られています。睡眠と覚醒の遺伝学は複雑であり、特発性過眠症患者集団の一部が異なる原因で症状を引き起こしている可能性があるため、遺伝学的研究を行うことはさらに困難です。

睡眠酩酊

睡眠酩酊には、2種類あります。特発性過眠症に伴う睡眠酩酊は、後者です。

  1. 散発的な睡眠酩酊…睡眠不足からの起床時や、変な時間に起こされた場合など、誰でもなることがあるもの。
  2. 慢性的な睡眠酩酊…眠りからの覚醒時、必ずなるもの。
  • postdormitum:睡眠後期⇔predormitum:睡眠前期
  • sporadic:[医]散発性の