「ただの寝不足」は大きな誤解です。

同義語

  • 睡眠不足症候群

診断基準

耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日ある。思春期以前の小児では、眠気の結果として生じる行動異常を訴える。

基本的な特徴

正常な注意力と覚醒水準を維持するために必要な睡眠量を持続的にとれない場合、睡眠不足症候群が生じます。患者は、臥床(※がしょう:寝床で横になる)時間の短縮により必要な睡眠時間を確保できなくなる結果、慢性的に断眠状態となります。

年齢と平均睡眠時間の間にはU字型の関係があり、睡眠時間が最小となるのは中年期の人々です。

睡眠検査所見…睡眠の開始と維持の能力に問題はないか平均を上回っています。

精神病理学的な問題…ほとんど、あるいは全く認められません。

理学的検査…患者の眠気を医学的に説明できません。

睡眠パターンの詳細な履歴を確認すると、睡眠の必要量と実際の睡眠量の間にかなりの差異があることが判明します。この差異の重要性を、患者が正しく理解していないことがしばしばみられます。平日の夜に比べて、週末の夜や休暇中に睡眠時間が延長することも、この障害を示唆する所見です。主要な睡眠時間をより長時間とらせる治療的試みをすると、症状を好転させることができます。

生理学的な睡眠必要量が7時間から8時間を著しく超える人(ロングスリーパー)にとっては、「平均的な」睡眠量(例えば、一晩7時間)は、実際には不十分となります。(相対的睡眠不足)

睡眠麻痺や入眠時幻覚などのさらなる症状が生じる場合もあります。(仮性ナルコレプシー)

随伴症状

この病態を伴う患者は、睡眠不足の慢性化やその程度によって、

  • 怒りっぽさ、集中力や注意力の欠如、覚醒低下、注意散漫、意欲低下、エネルギー欠如、不機嫌、疲労、落ち着きのなさ、協調運動不全、全身倦怠感

など、さまざまな症状を示すことがあります。睡眠不足に続発する症状が患者の主な関心となり、障害の一次的な原因をわかりにくくすることがあります。心理的、身体的に正常な人でも、生理的に必要とされるよりも少ない睡眠量が慢性的に続く場合は、日中の眠気を訴えるのが一般的です。家族や仕事の予定に伴う要請など、状況的要因により、十分な睡眠をとることが非常に困難な場合も時にみられます。

患者統計(有病率)

睡眠不足症候群は、あらゆる年齢で認められ、男女を問わず罹患します。思春期に多く認められるとされます。思春期は睡眠の必要量が高い一方で、社会的圧力と睡眠層の後退傾向があるために、しばしば慢性的な睡眠制限が生じます。また、文化的要因も睡眠持続時間に影響する場合があります。異なる国々の生徒の報告では、睡眠時間が一晩6時間から8時間まで変動します。

素因・誘因(原因)

社会的・心理的要因が、夜間睡眠の長さと日中の眠気に影響を及ぼす場合があります。シエスタ(午睡)のような文化的習慣は、夕方の注意覚醒を高めますが、夜間の睡眠効率の低下を代償にしています。また、夜型を好むクロノタイプの人は、不眠症や睡眠不足を訴えがちです。夜型と睡眠不足の関連は、性別、年齢、睡眠持続時間などの変数を調整した後にも一貫してみられます。

家族内発現形式(遺伝)

該当しません、または情報がありません。

発症・経過・合併症

睡眠不足症候群は、

  • 日中の眠気の増加、集中力の障害、活力減退、全身倦怠感

などをもたらします。
もし睡眠不足症候群に歯止めをかけないでおくと、

  • うつ病や他の心理的障害
  • 職場での作業効率の低下
  • 学業における勉強効率の低下
  • 家族や社会的活動から引きこもるようになる
  • 中枢神経刺激薬の乱用
  • 交通事故や職場でのケガ


などの問題を生じ得ます。

発達上の問題

睡眠不足症候群は、思春期によくみられる問題です。

睡眠・覚醒相後退症候群、違法薬物使用や不登校行動とは鑑別すべきです。

10代の若者に物質使用傾向や事故を起こしやすい傾向があるのは、睡眠不足の結果かもしれません。

病理・病態生理

睡眠不足症候群の症状は、断眠に対する生理学的・心理学的反応によるものです。健常者を対象とした睡眠制限研究では、軽度の睡眠制限であっても(例えば、一晩当たり6時間への夜間睡眠制限)、対応する作業遂行能力低下と眠気増加が確認されています。一晩につき4時間の睡眠制限(すなわち、1日の覚醒時間を20時間に延長する)を行うと、恒常性維持過程に伴う睡眠圧上昇が覚醒中により大きくなり、精神運動覚醒度課題を行うと、遂行能力障害を示す可能性が大きくなります。神経行動学的な作業能力評価に対する断眠の影響は、評価に用いる課題の性質によって変化し得えます。

長時間睡眠者(ロングスリーパー)の中には、9時間以上に睡眠時間を延長させると、作業遂行能力が改善する者が多いことを認識することは重要です。著しく多い睡眠量が生理的に必要である人(ロングスリーパー)に、睡眠不足症候群の診断をつけることは、とりわけ難しい問題です。

客観的な所見

2週間から3週間、睡眠日誌と合わせてアクチグラフ検査を継続すると、総臥床時間、睡眠潜時、総睡眠時間、そして睡眠効率を実証するのに役立ちます。睡眠ポリグラフ検査と反復潜時睡眠検査(MSLT)は、睡眠不足症候群の確定診断をするには必須ではありません。むしろ、まずその睡眠時間を延長させ、それから患者を再評価します。睡眠時間を延長する治療的な試みによって症状が消失すれば、睡眠不足症候群(だった)と診断されます。

睡眠ポリグラフ検査…睡眠潜時の短縮と高い睡眠効率(90%以上)が認められます。もし睡眠時間の延長が許されるなら、徐波睡眠(※レム睡眠)の反跳(※はんちょう)を伴う睡眠時間の延長がみられるでしょう。

自宅での睡眠時間の報告と睡眠検査室で観察される総睡眠時間との差異に留意することは診断に有効です。MSLTでは、ほとんどの昼眠試行で睡眠段階N1が短い睡眠潜時で生じ、過度な眠気があると確認されます。MSLTでの昼寝試行の80%以上で睡眠段階N2が出現します。睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)も出現することがあります。

鑑別診断

急性や慢性の断眠の結果として、反復睡眠潜時検査(MSLT)の異常(睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)を2回伴うことすらある)が認められる場合があるため、睡眠不足症候群はナルコレプシーや他の睡眠症状をもつ障害と混同されがちです。こうした混同は、思春期や青年期の患者に最もよくみられます。睡眠不足症候群の鑑別診断には、日中の眠気や夜間睡眠時間の短縮をもたらす原因には、

  • 他の中枢性過眠症群
  • 長時間睡眠者(ロングスリーパー)
  • 短時間睡眠者(ショートスリーパー)
  • 睡眠関連呼吸障害(SRBD
  • 概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD
  • 不眠障害感情障害
  • 周期性四肢運動障害(PLMD

など、非常に多くの病態が挙げられます。

未解決事項と今後の課題

自覚的に訴えられる眠気と、作業遂行能力の検査成績の低下程度、また断眠後に反復睡眠潜時検査(MSLT)で測定される眠気重症度との、相互の相関性はほとんどありません。

短時間睡眠者(ショートスリーパー)は、日中の眠気を訴えなくても、長時間睡眠者(ロングスリーパー)に比べて脳波デルタパワーで測定されるノンレム睡眠圧が高いことが多いとされます。

断眠に対する感受性には個人差があり、軽度の断眠後でも常により疲労を感じ、作業遂行能力の低下程度が大きい者もいます。

治療

出典

  • 米国睡眠医学会. "睡眠不足症候群(Insufficient Sleep Syndrome)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.130-132.