過眠症とドナー登録

過眠症患者のドナー登録可否について

過眠症患者はドナー登録できますか?

残念ながら、できません。

日本骨髄バンク ドナー適格性判定基準」によると、過眠症は「精神科疾患 → 精神障害 → 睡眠障害 → 過眠症(ナルコレプシーを含む)」に該当し、骨髄採取(BMH:Bone Marrow Harvest)・末梢血幹細胞採取(PBSCH:Peripheral Blood Stem CellTransplantation Harvest)ともに「C : 不適格」となっています。

なぜドナーになれないのか、骨髄バンク様から以下のようにご回答いただきました。

骨髄バンク様からの回答

睡眠障害・過眠症(ナルコレプシーを含む)はC判定としております。

骨髄バンク事業では、ボランティアドナーの健康と安全を優先します。その基本的な考え方として、ドナーは健康でなければならないとしています。WHOの定義している健康とは、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態を指します。

造血幹細胞提供においては、身体的なストレスのみならず、スケジュール面でもかなりのストレスがかかり精神的な負担が大きいといわれております。

そのため、全身麻酔をかけることや末梢血幹細胞採取を実施することだけでなく、その前後に係るストレスによってドナーの健康を害することがないということが前提となり、通常であれば、病的ではないとみなされる疾患に関してもドナー・患者の双方を守るために厳しい基準を設けています。

C判定とは、「当面は全身麻酔下での骨髄採取や末梢血幹細胞採取に支障をきたす可能性があると思われるもの」とされ、それぞれ疾患の内容により観察期間が異なります。

過眠症の場合は、医師の判断により治療を終了(服薬中止)後、10年以上経過している場合はB(要検討)としており、一定期間の経過観察後はご協力いただくことも可能となります。

また、本基準については、当法人諮問ドナー安全委員会において医師複数名で定期的に見直しを図っており、将来的には変更される可能性もあります。

公益財団法人 日本骨髄バンク

骨髄バンク様からの回答は以上です。

日本骨髄バンク ドナー適格性判定基準」における該当箇所については、下記の通り解説します。

ドナー適格性判定基準には、下記の4種類があります。

ドナー適格性判定基準【判定内容および対応】
A : 適格骨髄採取や末梢血幹細胞採取および移植の支障となるような疾患(器質的、精神的)が無いと思われるものは、コーディネートを進める。
患者理由で中止となった時のドナー登録は、継続とする。
B : 要検討各ドナーの状況に応じて検討を要するもの。結論が出るまでコーディネートは進めない。
確認検査時に「適格」としてコーディネート進行しても、採取前健康診断時に最終結論として不適格となることもある。不適格となった場合は内容によって、ドナー登録は保留(原則として 1 年間)または取消とする。
C:不適格当面は全身麻酔下での骨髄採取や末梢血幹細胞採取に支障をきたす可能性があると思われるもの。
該当する場合は原則としてコーディネートは中止とする。
コーディネートを中止としたものは、本人に通知し、一定期間(原則として1年間)ドナー登録を保留とする。
内容によっては、取消とする。
D : 絶対不適格将来にわたっても骨髄採取や末梢血幹細胞採取により健康上支障をきたしうる疾患、または患者に移行し得る疾患の既往歴があるものは、ドナー不適格とし、コーディネートを中止とする。
ドナー候補者には、ドナー登録取消しの手続きをおこなう。
※ 登録取消しのドナー候補者には、敬意をもって対応すること。
※A:適格 及び B:要検討項目で示してある検査値等はあくまでも参考値であり、最終的な判断は採取施設(採取担当医師及び麻酔科医師)が行う。

過眠症には、以下の通り「【精神科疾患】精神疾患・精神障害」の基準が適用されます。

【精神科疾患】精神疾患・精神障害BMHPBSCH
医師の判断により治療を終了(服薬中止)後、再燃(症状等)を繰り返している場合は不可D : 絶対不適格D : 絶対不適格
医師の判断により治療を終了(服薬中止)後、10年間は不可C:不適格C:不適格
医師の判断により治療を終了(服薬中止)後、10年以上経過しているB : 要検討B : 要検討

睡眠障害のうち「睡眠時無呼吸症候群」は「【呼吸器疾患】異常呼吸」の方にカテゴライズされており、詳細は下記の通りです。

【呼吸器疾患】異常呼吸BMHPBSCH
過換気症候群は、治癒後1年を経過し、再燃がなければ可A : 適格A : 適格
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合、もしくは、医療機関等で要観察となっている場合は、診断が判明するまで不可C:不適格C:不適格
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、無呼吸-低呼吸指数が、10回/時以上は不可C:不適格C:不適格

薬物依存ではありませんが、一部の患者様が服用しているお薬が、不適格にあたるおそれがあります。

【中毒、環境要因による疾患】薬物・覚醒剤中毒BMHPBSCH
以下、薬物依存の場合は不可
・依存型(薬物)
・モルヒネ型(モルヒネ、ヘロイン、コデイン、オピアール)
・アルコール・バルビタール型(アルコール、バルビタール、各種睡眠薬・安定剤
・コカイン型(コカイン)
・アンフェタミン型(アンフェタミン、メタアンフェタミン
・カンナビス型(大麻、マリファナ、ハッシシュ)
・幻覚剤型(LSD-25、サイロシビン)
・有機溶剤型(トルエン、キシレン)
※薬物依存は自己申告とする。
D : 絶対不適格D : 絶対不適格
【臨床的な問題】服薬中BMHPBSCH
服薬内容がいわゆる栄養剤、ビタミン剤等市販の保健薬であり、骨髄採取時に服薬中止(1 ヵ月前の中止が望ましいが、使用したい場合には、1 週間前までに中止)が可能なものは可
■対象薬物
①ビタミン剤(ただし、ビタミン薬による貧血治療中は除く)
②ミネラル剤(鉄剤による貧血治療中は除く)
漢方薬(服薬目的(肝疾患、感冒、喘息治療など)に注意)
④胃腸薬(感冒性下痢症状がある場合は除く)
⑤局所投与の薬物(点鼻、点眼、外用)
A : 適格A : 適格
海外から、個人輸入した薬剤・サプリメントを服薬している場合は不可C:不適格C:不適格
骨髄採取時、医師が必要と判断した麻酔薬(麻酔前投薬)を含む各種薬剤(鉄剤等)の使用は可A : 適格A : 適格

「不眠症」「概日リズム睡眠障害」「むずむず脚症候群」など過眠症以外の睡眠障害や、過眠症状を含む方もいる「起立性調節障害」「発達障害」「慢性疲労症候群」などに関する記載はありませんでした。


まとめ(私見)

古いドナー適格性判定基準(初版 2010.10.1)には「睡眠障害」や「過眠症」に関する記載はありません。疾患の知名度が上がってきた結果、収録されるに至ったのでしょう。

ドナー適格性判定基準は厳しく、最近カウンセリングを受けただけとか、育毛剤を使っているとか、思わぬ点からNGとなる場合もあるのでご注意ください。

しかし、ひとくちに「過眠症」といっても、いくつかの種類がありますし、寝たきりで動けない人から、睡眠不足であること以外は心身ともに健康な方まで、現在「過眠症」とされている方々の症状はとても幅広いのが実情です。命にかかわることや危険なことが制限されるのは道理ですが、「過眠症」という診断名で一律に括られてしまうことには、やや疑問が残りました。

運転免許などは、診断名で一律NGとする欠格事由制度が廃止され、個々の症状に応じて、運転の可否を判定してもらえるようになりました。ドナー安全委員会には、睡眠のお医者さんがいらっしゃらないようですが、もし、どんな病気かよく知らないまま、ナルコレプシーも睡眠不足症候群もひっくるめて「過眠症」に分類し、実態にかからわず一律に観察期間を10年と設定しているとしたら、それは非常に大きな機会損失かもしれません。そしてその状況は、他の多くの病気についても同じように当てはまるかもしれません。同じ診断名でも、人によって症状の程度が大きく異なるような、明確な診断指標となるバイオマーカーを持たない疾患は多数あります。そういったケースでは、専門医のレビューを行い、個々の重症度や服薬状況に応じた慎重な判定が叶えば、骨髄移植を待っている方にとっても、骨髄提供したい意思のある方にとっても、朗報だと思いました。将来的に状況が変わることに期待したいと思います。

取材協力:日本骨髄バンク
※この記事は作成にあたり日本骨髄バンクのレビューを受けています。

著者

藤 崎 友
藤 崎 友
過度の眠気による不登校・定時制高校を経て、慶應義塾大学卒業後、IT企業入社。Webサイト制作・プログラミング歴10年。集客マーケティングに特化した広報デザイン、Webデザイン、ロゴデザイン技術習得。他、英検準一級の語学力と睡眠健康指導士の知識を活かし、睡眠情報の翻訳等を手掛ける。

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