過眠症と合理的配慮

合理的配慮とは?

障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)は、2006年12月13日に国連で採択され、日本では2014年2月19日に発効しました。

障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。

合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

障害者の権利に関する条約

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)は、2013年6月26日に制定されました。

(定義)第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一.障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

二.社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

学校生活でありがちな困りごと(制限・制約)

  • 睡眠・覚醒機能に障害があると、遅刻や欠席が目立つようになります。不眠により睡眠時間が不足すると、寝起きが悪くなり、午前中の出席に影響します。睡眠導入剤等を服用していると、午前中の早い時間帯の授業が負担になる場合があります。
  • 症状の程度や内容は変動します。その変動は、日・週・月単位で周期的だったり、不定期だったりします。日内変動(朝や午前が不調なことが多い)があると、通学や、授業に集中することが難しくなります。
  • 情動の不安定さ、思考力、記憶力、集中力の低下をきたすことがあり、物事に意欲的に取り組むことや予定通りに課題を遂行することが難しくなります。
  • 授業中、意に反して眠ってしまい、聴き漏らしが生じます。
  • 睡眠障害の症状を、ただの怠けと卑下し、自分自身のニーズに気付いていなかったり、意思表明が困難だったりする場合があります。
  • 症状に起因して疲れやすく、体力的に1コマの授業に通しで参加したり、毎日出席することが困難な場合があります。
  • 定期的な病院受診が必要なため、授業に毎日出席することが困難な場合があります。
  • 運動制限のため、実技によっては参加できないことがあります。
  • 決められた課題を行なう上で、自分の能力に対する自信が欠如していることがあります。
  • 薬の副作用により、身体的・精神的な問題が生じることがあります。
  • 起床困難の症状があると、その日の体調によって時間の見通しが立てられず、授業に遅刻したり、約束の時間に間に合わないことがあります。
  • 長時間睡眠の症状があると、短い活動時間の全てを課題に費やしても終わらないことがあります。締切に間に合わず、不完全なまま提出してしまうことがあります。

上記の困りごとにより、周囲からやる気がない、能力がないと誤解されてしまうことがあります。これは、常に同じように眠いわけではなく、起きていられる時もあるため、気持ちの問題なのではないかと思われてしまうためです。意思の力で眠気をコントロールできないことが誤解を生んでいます。このように、パフォーマンスのムラ(課題や試験の出来、1日の作業量、集中できる時間等の両極端さ)が大きいほど、本人が不全感を感じやすく、精神的な不安定さにつながりやすいため、特に周囲の理解が必要です。

合理的配慮の具体例

授業

  • 授業内容の保障として、授業の録音や板書の写真撮影のための支援機器使用を許可します(ICレコーダーやスマートフォンのカメラアプリ等)。
  • 長時間にわたって座って授業を聞く必要がある場合には、休憩をこまめにとる、あるいは、途中退席・途中復帰しやすい環境を設定することで、授業に集中しやすくなります。
  • 先生のオフィスアワーを活用するなどして、学生が授業中に曖昧になっている内容(授業の内容やテスト等の重要な情報)を質問したり、確認したりするための時間を提供することが望ましいでしょう。
  • 朝の起床困難により、欠席や遅刻が避けられない場合があります。このような体調不良が懸念される時期は、あらかじめ急な欠席や遅刻の可能性について先生に相談することができれば、当日の連絡や配付資料の提供等、具体的な情報保障について決めておくことができます。
  • 通学に伴う体調不良の程度や日数について、主治医に理解してもらうことが有用です。特に実習や実験の場合、学校側は実習先やパートナーへの配慮も必要になりますので、主治医からの意見や助言が必要と判断されることがあります。
  • 授業で欠席や遅刻をする場合、先生にそれらの回数の猶予や代替課題の提示、又は試験や評価の変更点を個別に検討してもらうことになります。先生が評価条件をどのように求めるかによって、多様な個別的対応が提示されます。
  • 急激に過眠症状(強い眠気)が生じた場合、速やかに服薬や退室をして良いことを、あらかじめ本人に伝えておきます。

試験(入試を含む)

  • 学生の状態によっては、パーティションの使用や、別室受験が望ましい場合があります。
  • レポートや課題の評価に当たって、締切を延長する措置が必要な場合もあります。ただし、これらはいずれも、それらの配慮を行なうことで本人の能力を最大限に発揮できる場合に限り実施すべきです。締切を何度延長してもレポートや課題の提出が難しい子の場合、レポートや課題の作成のスケジュールを一緒に考える方が効果的です。
  • 試験や課題といった成績評価に関わる部分での合理的配慮については、周囲の学生から説明を求められることがあります。その場合、なぜこのような配慮が必要か、またその方法が公平な評価であることを説明する必要があります。そのために、誰に何をどこまで伝えて良いかについて、本人と事前に決めておく必要があります。
  • 公共交通機関の利用が難しい場合は主治医と相談の上、自動車での入構許可を検討します。
  • 試験中に頓服薬の必要がある場合、服薬と飲水を許可します。
  • 試験を欠席した時に追試験や再試験を設定します。
  • 教室での試験の際、周囲の受験者への影響が避けられない症状(居眠り等)を呈する可能性が高い場合、別室受験を許可します。
  • 試験を受けることができない場合の代替措置(校外での試験実施、例えば自宅での試験又は課題レポートの提出等)
  • 試験開始時間を遅らせたり、時間延長したりするなど、流動的な試験時間の調整(体調により長時間の試験に耐えられない場合、休息時間を含める)

その他

指導方法の例

個別の状況は多様で、 同じ診断名がついていても、合理的配慮のニーズは必ずしも同じではありません。

座席配慮・居眠りしてしまった時、すぐ気づいてもらえるように、前の席にしてほしい。
・居眠りしてしまった時、周りの人の授業の妨げにならないように、後ろの席にしてほしい。
※同じ症状でも、配慮してほしい内容が、人によって正反対な場合もあります。
課題長時間睡眠(中高生の場合、11時間ないし12時間以上)の症状があり、自宅学習の時間が短いことを考慮のうえで…
・時間内に終わるよう、課題の内容を調整してほしい。
・完成度を落とさぬよう、提出期限を延長してほしい。
※同じ課題でも、締切に間に合わせるために内容を削るか、全部やりきることを目指して期限を延長するか、よく話し合ってください。
板書の撮影許可、録音許可EDS(日中の過度の眠気)症状があり、うまくノートがとれず、授業内容についていけない時間帯があるため。

言い方も大事

×
睡眠発作時の対応を、事前に話し合って決めておきたい。病気なので授業中に居眠りをしても見逃してほしい。

学校における合理的配慮は、あくまで健康な生徒と同等の教育を受ける権利を保障するための措置です。教育の機会を放棄するような要求は認められません。

30分以内の短い仮眠で目が冴えるナルコレプシータイプの方は、「保健室での仮眠」等を要求しても良いと思います。

特別な支援や配慮は、特定の生徒に対する特別扱いではないか、という声があるかもしれません。
合理的配慮は、他の生徒と同等の機会を提供する特例といえますが、成績等の点で優遇するものではありません。
例えば、試験方法等の変更や調整を行うことは、試験で測りたい能力(知識・技能・思考力・判断力・表現力等)に影響を及ぼすものではありません。合理的配慮の提供は、すべての生徒が同じスタートラインに立って学ぶために必要な措置であり、障害のある生徒の学ぶ権利を保障するためのものです。
他の子には認めていないから、前例がないから、等の理由で却下することがあってはなりません。
また、特別扱いと感じさせない教室の雰囲気づくりも、個別の配慮と同様に大切なことです。

自分のことは自分で決める

"Nothing About Us Without Us"(私たちのことを私たち抜きで決めないで)という言葉を知っていますか?日本語では統一された訳語はありませんが、これは、世界中の障害者の間で掲げられているスローガンです。障害をもつ方も、そうでない方も、自分自身に関わる問題には、主体的に関わっていこうという考え方を示すものです。

自分が何に困っていて、どういう配慮をしてもらえたら助かるのか、どんな病気で、どういう症状があり、何ができて、どういうことを避けた方が良いのか等、自分のことを過不足なく説明できる能力は、本人が今後生きていくうえで、とても重要です(自己理解と意思表明)。

特に社会では、自ら配慮を求めて交渉しなければならない場面も少なくありません。決められる側から決める側へと認識をシフトし、主体的にプレゼンテーションできるようになりましょう。

×「ナルコレプシーなので、合理的配慮を希望します。病名から判断し、適切な支援をしてください」→同じ病名でも、人によって病状は異なる。具体的な配慮要求がないと、学校側は対応できない。自分自身のことなのに、丸投げ・お客様意識ではいけない。

進学・受験

大学や専門学校等への進学にあたっては、何らかの形で選考が行なわれます。過眠症状によって受験で不利になることのないよう、合理的配慮を求める必要があるかもしれません。

大学側に求められていること

情報公開

障害のある受験生にとって、大学の合理的配慮の対応状況を的確に把握することは、志望大の決定において重要な判断材料となります。オープンキャンパスや入学説明会、または一般公開されているホームページ等で、入学試験の合理的配慮に関する相談窓口・申請方法・時期等を明確に発信してください。

運用体制の整備

合理的配慮の内容を協議・決定するためのガイドライン作りが望まれます。合理的配慮に関する事例やノウハウを蓄積することで、より良い対応を模索できます。

学校間連携

障害のある学生の入学にあたっては、以前の学校生活について、個別支援計画の内容をヒアリングする等、出身校の先生と情報共有するのがスムーズです。ただし、高校と大学では、授業スタイルや評価制度が大きく違うため、支援のあり方も異なるかもしれません。※情報共有を行なう場合、学生本人の了承を得る必要があります。

合理的配慮の求め方

①生徒からの申し出
合理的配慮の検討は、原則として本人からの申し出によって始まります。
②根拠資料の提示
その生徒に対してどんな配慮ができるか、その配慮が妥当かどうかの判断材料として、根拠資料を求めます。
根拠資料の例:
・障害者手帳(過眠症単独では対象外)
・医師の診断書
・病院の検査結果
・睡眠日誌
③話し合いと決定
生徒の困り感やニーズを丁寧に聴き取るとともに、学校としてできること、できないことを伝え、双方が納得できるように話し合います。
・合理的配慮の決定については、学内規定を定め、それに沿って手続きします。
・合理的配慮の内容は、先生の個人的な判断ではなく、委員会等組織として最終決定されるようにします。

合理的配慮を申し出る生徒は、修学の意欲があるのに、学習に困難を感じて助けを求めています。「今後の勉強生活に関して、一緒に考えていきましょう」という姿勢が重要です。事務的に、配慮の採用・不採用についての結論を出すことをゴールに設定して話し合いに臨むと、建設的な対話にはなりません。生徒の話をよく聞いて、その困難や不安を理解することからスタートすることが重要です。

合理的配慮は不公平か?

合理的配慮の正当性を巡る議論において、全ての人に同じ対応をしており、不公平になるから特別待遇は行わない、という声があります。しかし、合理的配慮は、障害や社会的障壁によって生じた機会の不平等を正すためのものです。

たとえば、板書・口頭のみで提供している授業内容について、黒板の撮影・講義の録音許可を求められたとします。
既存の状況では、授業中覚醒状態を保っていられる人だけに情報提供をしていることになり、覚醒維持機能に障害をもつ生徒に対して、既に学習の機会に差が生じていることがわかります。

提供者側にとって、均衡を失した又は過度の負担を強いる内容でない限り、合理的配慮の要求は認められるべきです。

また、障害者にとって便利なことは、通常、多くの健康な方にとっても便利なことです。授業を撮影・録音し、何度でも振り返り学習ができるようにするなど、学習の効率化を工夫することは、教える側・学ぶ側双方にとってメリットがあります。


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