
孤発症状と正常範囲の異型
同義語
- 長時間睡眠者
- ロングスリーパー
基本的な特徴
ロングスリーパーとは、自分と同年代の特徴を表す代表的な人よりも、一貫して24時間中にかなり長い睡眠をとっている人のことです。
成人の場合…一般に認められた基準では10時間以上ですが、多くの疫学調査では8時間から10時間の睡眠時間を基準値として用いています。
小児や青年の場合…もし睡眠時間が年齢に特異的な標準値よりも2時間以上長いときは、ロングスリーパーの診断を考慮すべきです。
年齢 | 推奨睡眠時間 (標準値) | ロングスリーパー |
---|---|---|
小学生 (6-13歳) | 9-11時間 | 12時間以上 |
中高生 (14-17歳) | 8-10時間 | 11時間以上 |
成人 (18-64歳) | 7-9時間 | 10時間以上 |
睡眠は長時間ではありますが、睡眠構築や生理学的には正常です。睡眠効率や睡眠のタイミングも正常です。注意深く記録された睡眠日誌(できれば、アクチグラフ検査での確認が望ましい)によって、日々の睡眠が一貫したパターンであり、少なくとも7日間以上、毎晩10時間以上の睡眠時間をとっていることを確認して、ロングスリーパーを同定することが望ましいとされています。
ロングスリーパーが医療的な援助を求めるのは、一般的に彼らが必要とする睡眠時間より少ない睡眠時間への短縮を強いられた結果、眠気が生じるときです。
発症・経過・合併症
通常、長時間睡眠のパターンは小児期に始まり、青年期初期に十分に確立され、一生涯持続します。
多くのロングスリーパーは、職業上または学業上の要請から、仕事や学校のある平日は一晩の睡眠を9時間として、まずまずの成功を収めていますが、週末や休暇中には一晩の睡眠を12時間以上に増やしています。
男性の約2%、女性の約1.5%が一晩当たり少なくとも10時間眠ると報告しています。
子どもの場合、そもそも大人よりも睡眠時間が長く、睡眠時間を親に管理されていることが多いので、発見されにくいかもしれません。
週末に子どもを寝かせて、睡眠時間を測定してみると、この障害の有無の目安になります(10~12時間を超えるかどうか)。
疫学研究では一貫して、平均的な睡眠持続時間と比べると長時間睡眠が死亡率の増加と関連すること(特に体格指数(BMI)の増加、耐糖能の低下、2型糖尿病と冠動脈性心疾患の有病率増加とも関連)が見出されていますが、長時間の睡眠をとる人のほとんどが、元来のロングスリーパーなのか、睡眠時間の過剰をもたらす障害をもっているのか、よくわかっていません。
NOと答えざるを得ないナンセンスな質問です。
統計や平均は、あくまで全体の傾向であり、大切なのは、あなた自身の体質です。
生理的に長時間睡眠が必要な体質(ロングスリーパー)なのに睡眠時間を削ったら、当然、健康を害します。
60歳以上の群において、睡眠持続時間が9.5時間より長いことと関連する因子は、
- 男性であること
- 学歴が低いこと
- 身体運動をしないこと
- 身体疾患が多いこと
でした。
家族内発現形式(遺伝)
(9時間を超える)長い睡眠時間は遺伝性が高く(44%)、一卵性双生児間ではよく一致し、双子が同居している場合はさらに一致率が高くなります。
全ゲノム遺伝子関連研究では、睡眠持続時間は他因子遺伝子性であることを支持し、時計遺伝子やその他の遺伝子(DEC2、K+チャンネル調節蛋白の遺伝子)の影響を受けます。
ロングスリーパーは、正常な睡眠持続時間の連続分布の正常値上限に相当すると推定されます。
ロングスリーパーは、ショートスリーパーと同様、睡眠段階N3の絶対量は正常ですが、睡眠ポリグラフ検査の前に慢性的な睡眠制限があると、睡眠段階N3(※ノンレム睡眠の深い段階)の睡眠量が増加します。睡眠段階N2とレム睡眠の量は、健常群よりやや多めです。睡眠時間帯のズレの問題はなく、睡眠の量とや質を正確に把握する能力にも問題はありません。もし検査実施前の数日間、夜の睡眠が必要量までとれたと仮定すれば、反復睡眠潜時検査(MSLT)では眠気が全くないということが明らかになります。
鑑別診断のポイント
ロングスリーパーを、ナルコレプシー、特発性過眠症、睡眠関連呼吸障害(SRBD)、身体的原因による過眠症状と鑑別することは重要です。睡眠時間延長をもたらす病因は、急性または亜急性に発症することが多く、ロングスリーパーのように小児期から存在して安定した経過を示すことは稀です。それでも、小児期や青年期においては過眠症状を呈する病的状態から鑑別するのが難しい場合があります。なぜなら、この年齢群では正常な睡眠持続時間の分布が、成人期よりもやや長いからです。他の病態に関連する特異的な診断的特徴によって除外診断を進め、十分な睡眠が確保されると(例えば、長期休暇の間など)、覚醒中の遂行機能の質についての訴えがなくなることにより、ロングスリーパーの正確な確定診断ができることが多いとされています。
真のロングスリーパーを特発性過眠症の患者から鑑別するのは、とりわけ難しいことがあります。真のロングスリーパーは、長時間眠ることで気分がさっぱりし、長時間の夜間睡眠を強制的にとらせれば眠気は消失します。
まとめ
ロングスリーパーの多くは、社会生活に合わせて睡眠時間を制限せざるを得ないため、日中は不眠症患者と同じさまざまな眠気症状に悩まされます。週末になると、ロングスリーパーは、削られた睡眠時間(睡眠負債)を取り戻すため、十数時間もの睡眠をとることが日常になっています。ロングスリーパーの中には、この体質を受け入れ、その制約の中で生活し、毎晩10時間以上眠れるように、早い時間にベッドに入るという人もいます。
ロングスリーパーは、他の睡眠障害や医学的問題の発生につながる可能性があるため、この体質に抗わないことが推奨されます。その制約の中で、できる限りうまく生活するようにしましょう。つまり、生活の他の側面を犠牲にすることなく、できるだけ多くの睡眠を確保することです。
長時間睡眠を避けようとしたり、頑張って無理矢理起きていると、他の睡眠障害につながる可能性があります。概日リズム睡眠障害がその一例です。この障害は、毎日数時間起きている時間が失われることよりも、社会的な人間関係や職業上のキャリアに致命的なダメージを受けることの方が深刻です。
適切に自己管理すれば、長時間睡眠は健康を害するものではありません。睡眠不足を解消し、毎日一定の睡眠時間を確保する方法はあります。もし、自分がロングスリーパーかもしれないと思ったら、すぐに医師に相談し、適切な診断と治療の解決策を教えてもらいましょう。
その他:孤発症状と正常範囲の異型
寝過ぎ(臥床時間過剰)
睡眠潜時の延長や、長時間の夜間覚醒といった孤発した不眠症の症状があっても、不眠症の訴えや日中の機能障害を示さないことがあります。
子どもの場合…このパターンは、親や保育者が、子どもに必要な睡眠時間に関して非現実的な思い込みをして、毎晩、日常的に子どもを長時間臥床させることで生じます。
大人の場合…必要な睡眠時間をかなり超えた時間を日課的に臥床して過ごすものの、特に何も訴えない群でこのパターンがよくみられます。たとえば、退職者や現在無職の人が、毎晩決まって過剰な時間を臥床して過ごし、日常的に長時間の中途覚醒を経験しているにもかかわらず、それに悩んではいない場合などです。
年齢 | 適正睡眠時間の目安 |
---|---|
新生児(0〜3ヶ月) | 14〜17時間 |
乳児(4〜11ヶ月) | 12〜15時間 |
幼児(1〜2歳) | 11〜14時間 |
未就学児(3〜5歳) | 10〜13時間 |
小学生(6〜13歳) | 9〜11時間 |
中高生(14〜17歳) | 8〜10時間 |
成人(18〜64歳) | 7〜9時間 |
高齢者(65歳〜) | 7〜8時間 |
現在のところ、疫学研究や実験的研究では、健康転帰が悪くなるのが、自覚的な睡眠困難や睡眠不満足とより関連するのか、あるいは睡眠時間・睡眠潜時・睡眠持続性といった特定の客観指標とより関連するのか、明らかにできていません。
寝過ぎ(臥床時間過剰)とロングスリーパーの違い
寝過ぎ(臥床時間過剰) | ロングスリーパー |
---|---|
不眠症のなかま | 過眠症のなかま |
眠らないで寝床で過ごしている時間が長い | 寝床で眠っている時間が長い |
改善の余地がある | 生理的な必要がある |
ショートスリーパー(短時間睡眠者)
日常的に毎晩6時間未満の睡眠時間しかとらなくても、睡眠・覚醒についての訴えがない人もいます。このような人は、睡眠困難の訴えがなく、明らかな日中の機能障害を示さなければ、正常なショートスリーパーとみなされます。これらの人たちに観察される比較的短い平均睡眠時間は、睡眠不足症候群の症例のような慢性的で意図的な睡眠制限ではなく、むしろ体質的な睡眠欲求の減少を示しています。慢性的なショートスリーパーの臨床的意義と、考え得る亜型の同定は未解決のままです。短時間睡眠と、代謝疾患・心血管疾患、その他の病的状態を関連付けたさまざまな研究がなされていますが、これらの研究は概して、
- 不眠症あるいはその他の睡眠障害による短時間睡眠なのか?
- 意図的な睡眠時間制限なのか?
- 生来の短時間睡眠なのか?
を区別できていません。異なる要因による短時間睡眠は、異なる病態生理学的意味をもつ可能性があります。
ロングスリーパーとショートスリーパーの違い
ショートスリーパー | ロングスリーパー | |
---|---|---|
睡眠時間 | 6時間未満の睡眠で十分 | 適切に活動するために毎夜9時間以上の睡眠が必要 |
性格的傾向 | 一般に能力が高く、野心家で、社会適応が良好で、満足感をもっている。 | やや抑うつ的で、不安で、社会的に引きこもりがち。 |
出典
- 米国睡眠医学会. "長時間睡眠者(Long Sleepers)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.133-134.
- Rebecca Levi. "Long Sleeping & Long Sleeper Syndrome". The Sleep Doctor. September 15, 2022. https://thesleepdoctor.com/how-sleep-works/long-sleeper/, .
ロングスリーパーのパンフレット
学校、職場、家庭などで周りの理解を得たいときに、印刷してご使用ください。