ナルコレプシーや過眠症になったからといって、一律に自動車の運転が禁止されることはありません。
自動車等の安全な運転に支障のある方については、道路交通法等により、一定の要件を設けて、運転免許を①拒否(与えない)、②保留(一定期間与えない)、③取消し、④停止されることが定められています。ただし、運転免許の拒否、取消し等を受ける要件に該当しているか否かは、あくまでもそれぞれの方について個別に判断します。
過眠症状が自動車等の運転に及ぼす影響は、個別具体のケースによりまちまちで、運転免許に一定の条件を付すことにより補うことができる場合や、治療により回復する場合等があります。運転に不安のある方は、安全運転相談窓口をご利用ください。
道路交通法改正のあらまし
免許は、国民生活に密接にかかわる一方で、交通事故が発生した場合、他人の生命・身体を損ないかねないという性格を有しています。交通の安全と障害者の社会参加の両立の確保の観点から、障害者に係る運転免許(以下「免許」という)の欠格事由について見直しが行われました。
この結果、病気にかかっている場合や身体の障害が生じている場合であっても、自動車等の安全な運転に支障がない場合や、支障がない程度まで回復する場合もあると考えられることから、障害者に係る免許の欠格事由についてそのすべてを廃止し、自動車等の安全な運転の支障の有無により免許取得の可否を個別に判断することとしたものです。
安全な運転に必要な身体的能力や知的能力は、運転免許試験(適性、技能及び学科試験(以下「試験」という))で確認することが基本です。
(免許の欠格事由)
第88条旧・道路交通法(昭和35年6月25日法律第105号)
- 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、第一種免許又は第二種免許を与えない。
- 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者※他号省略
意識障害を伴う発作を起こす持病を有する運転者による交通事故が相次いで発生し、持病を有することを申告せずに免許証の更新を繰り返していたことが明らかとなりました。このため、免許を受けようとする者等が、一定の病気等に罹患しているかどうかを適確に把握し、一定の病気等に起因する交通事故を防止することを目的として、「質問票」の提出が義務付けられました。
質問票
免許取得時又は更新時に、一定の病気等の症状に関する「質問票」を提出する必要があります。次の項目について、「はい」又は「いいえ」で回答します。
※もし「はい」が多くても、直ちに運転免許を取り上げられることはありません。運転免許の可否は、医師の診断を参考に判断されます。必ず正しく答えてください。
質問票は、「運転免許申請書」の裏面に印刷されています(都道府県により異なる)。
実際に質問票に答えてみましょう!
- 過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状を含みます。)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
- 過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。
- 過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中 、活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある。
- 過去1年以内において、次のいずれかの状態に該当したことがある。
- 飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある。
- 病気の治療のため、医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒したことが3回以上ある。
- 病気を理由として、医師から、運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている。
あなたは0個チェックが付きました!
- 質問票には、必要事項を正しく記載してください。
- 質問票の記載内容により、直ちに、運転免許の取消し等にはなりません。
- 質問票の記載内容等を踏まえて、運転免許取消しとなった場合でも、病状が快復し、運転免許を再取得することができる状態になった際には、試験の一部が免除されます。(取消しとなった日から、3年以内に限ります。)
- 質問票に虚偽の記載をする行為には、罰則が設けられています。
- 「運転適性相談窓口」が、各都道府県警察に設置されています。病気等で、自動車等の運転に不安がある方は、ぜひ、御相談ください。
安全運転相談窓口
令和元年11月から運転適性相談が安全運転相談に名称変更されました。
安全運転相談は、病気、身体の障がい等をお持ちの方の運転免許の取得、運転免許をお持ちの方の運転の継続、運転免許証の返納等に関して、本人又はそのご家族からの相談を受け付けている窓口です。
「過眠症と運転免許」について情報をまとめるにあたり、神奈川県警察・安全運転相談・責任者の渋谷様にご協力いただきました。手続きや制度に関しては、都道府県によって多少の違いがあるため、まずは安全運転相談ダイヤルに電話してほしい、とのことです。「#8080(ハレバレ)」に発信すれば、自動的に、最寄りの安全運転相談窓口につながります。
※受付時間は、原則として平日の執務時間内となります。
※通話料は、利用者負担となります。
免許が制限される病気
過眠症以外の、運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について当てはまる方は、該当する病気の項をご参照ください。
6.重度の眠気の症状を呈する睡眠障害(令第33条の2の3第3項第2号関係)
- (1) 医師が「現在、睡眠障害で重度の眠気を生ずるおそれがあり、6月以内に重度の眠気が生じるおそれがなくなる見込みがあるとはいえない」旨の診断を行った場合には拒否又は取消しとする。
- (2) 医師が「現在、睡眠障害で重度の眠気を生ずるおそれがあるが、6月以内に重度の眠気が生じるおそれがなくなる見込みがある」との診断を行った場合には6月の保留又は停止とする。(医師の診断を踏まえて、6月より短期間の保留・停止期間で足りると認められる場合には、当該期間を保留・停止期間として設定する。)
- 保留・停止期間中に適性検査の受検又は診断書の提出の命令を発出し、
- ① 適性検査結果又は診断結果が「重度の眠気が生じるおそれがない」旨の内容である場合には拒否等は行わない。
- ② 「結果的にいまだ「重度の眠気が生じるおそれがない」旨の診断をすることはできないが、それは期間中に○○といった特殊な事情があったためで、更に6月以内に重度の眠気が生じるおそれがなくなる見込みがある」旨の内容である場合には更に6月の保留又は停止とする。(医師の診断を踏まえて、6月より短期間の保留・停止期間で足りると認められる場合には、当該期間を保留・停止期間として設定する。)
- ③ 「6月以内に重度の眠気が生じるおそれがなくなる見込みがあるとはいえない」旨の内容である場合には拒否又は取消しとする。
- (3) その他の場合には拒否等は行わない。
免許取得・更新の流れ
個別聴取
<質問票の回答による対応>
質問票の提出を受けた場合において、当該質問票回答欄の「はい」にチェックがあるときは、個別聴取を行い、その実施状況等を記録する帳簿等を備え付け、プライバシー保護に留意し、適切に保管されます。
なお、個別聴取に当たっては、申請者のプライバシー保護・申請者の心情に十分配慮し、自動車等の安全な運転に支障のない者が免許の取得等をできないことがないよう、また、自動車等の安全な運転に支障のある者が免許の取得等をすることのないよう、その内容に応じて適切な対応を行います。
<個別聴取の実施場所の確保等>
個別聴取については、プライバシー保護の観点から、申請窓口以外の場所にスペースを確保して行うとともに、当該場所が個別聴取の実施場所であることが外見上分からないように配意されます。
また、申請者を個別聴取の実施場所に誘導するに当たっては、プライバシー保護の観点から、申請者が個別聴取を受ける者であることが分からないよう配意した誘導方法をとります。
<臨時適性検査等の必要性を認めた場合の措置>
警察署における個別聴取の結果、①臨時適性検査又は②診断書提出を行う必要があると認められた場合には、当該申請者に対して、警察本部から後日臨時適性検査の通知等がなされる可能性があること等を教示されます。
なお、この場合において、申請者が自動車等の運転に必要な適性検査(視力検査等)に合格したときは、免許証の更新は可能です。
<質問票の適正な管理>
質問票に虚偽の記載をして提出した者については法第117条の4第2号違反が成立することとなることから、質問票は9年間保存されます(記載から3年が経過した質問票のうち、当該質問票を記載した者が新たに質問票又は報告書を提出した場合については、この限りではありません)。
臨時適性検査
個別聴取で、一定の病気等に該当された方は、①臨時適性検査又は②診断書提出の二択になります。ほとんどの方は診断書提出を選択します。
臨時適性検査とは、運転免許をこれから取得される方や、すでにお持ちの方が、一定の病気等を疑う理由がある時に、公安委員会が認める専門医の診断により行われる検査です。(検査内容は、病気により異なります。)
ナルコレプシーなど重度の眠気を呈する睡眠障害の場合、MWT(覚醒維持検査)を課されることになります。MSLTが眠りやすさを調べる検査であるのと異なり、MWTは覚醒維持能力を評価するのに用いられます。
暗く静かな、眠気を催しやすい状況で、眠気を我慢して覚醒を維持するよう指示されるので、健康な方でも眠ってしまうことがあります。ましてや、運転に不安がある=起きていられる自信のない人が受けるには不利な検査です。
主治医と相談しながら、診断書を書いていただく方が安心ですね。
居眠り運転と交通事故
患者会宛に、「田舎だから車がないと生活できない」という相談が多数寄せられます(秘密は厳守します)。居眠り運転するかもしれないと薄々自覚しながら、病気を隠して運転するのは危険なことだし、何より、ご本人が罪悪感を抱えて、心が苦しいと思います。
警察では、具体的な事故の事例についてはお教えできない、とのことでしたが、少なくとも、居眠り運転による交通事故のうち、ナルコレプシーなどの過眠症を理由とした事案は、過去聞いたことが無いそうです。むしろ患者の自覚がある方の方が、服薬など、きちんと眠気のコントロールを行い、細心の注意を払って運転しているのかもしれませんね、とフォローいただきました。
過眠症は、診断を受けたら免許がとれない病気ではなく、免許の可否は、個々の状態に応じて、運転への支障の有無で判断されます。
きちんと主治医と相談し、適切な治療を受けながら、正しい手続きで免許を保有できるように、患者会がサポートします。