はじめに

日中の過度の眠気(EDS)は、睡眠障害に伴う主要な症状の一つです。何をもって眠気の指標とするかについては、必ずしも定説はありません。そのような現状のもと、睡眠潜時反復検査(MSLT)は、ポリソムノグラフィを用いて昼間の眠気を客観的に評価する手法として広く用いられています。

MSLTは1977年に発表され、1986年には眠気の標準的な測定法として、①臨床用と②研究用の2つの手順が作成されました。1992年には、米国睡眠障害学会(ASDA)がその臨床用についてのガイドラインを提唱し、現在まで広く眠気の客観的な指標として利用されてきました。2005年には、MSLTを臨床で利用する際の実施手順が米国睡眠医学会(AASM)より報告されています。

MSLTの概要

MSLTは、外界からの覚醒因子を除いたうえで、眠りにつく能力・眠りやすさ(いかに早く入眠できるか)を客観的に評価する方法です。よって眠気に影響する因子はあらかじめ十分に検討したうえで実施計画を立てる必要があります。また、結果の解釈においては、検査施行までの睡眠・覚醒パターン、薬剤使用、検査時の状況も考慮します。

MSLTの手順には、①臨床用と②研究用の2つがあります。①臨床用の手順については、表1・表2を参照してください。②研究用の手順によると、入眠後ただちに検査を終了します。平均入眠潜時(MSL)は、①臨床用に従った場合と比べ、②研究用では長くなることがありますが、有意差は認められません。

表1:MSLTの臨床ガイダンスと患者の準備編
1自宅で十分な睡眠をとれるよう、睡眠時刻・睡眠時間について、先生と一緒に目標を決めておきましょう。検査前の2週間、十分な睡眠をとったことを、睡眠日誌かアクチグラフで証明する必要があります。
2OSAなどの睡眠障害を治療したにもかかわらず持続する眠気のためにMSLTを受ける患者の場合、MSLTは患者が臨床的に安定しており、既存の睡眠障害の治療法が確立され有効であるときに実施してください。PAP療法による睡眠呼吸障害患者の場合、臨床医はデータのレビューに基づき、有効性とアドヒアランスを確認する必要があります。患者が睡眠呼吸障害に対してPAP療法以外を使用している場合、MSLTの前に、その療法の十分な使用と有効性の自己申告を確認する必要があります。十分な効果が得られない場合、臨床医は検査結果への影響が予想され るため、予定を変更する必要があるかどうかを判断する必要があります。患者はMSLT前夜のPSG中にPAP療法および/または非PAP療法を使用する必要があります。
3臨床医は、処方薬、一般用医薬品、漢方薬、およびその他の物質の使用に関する計画を立てる必要があります。一般に、覚醒作用、鎮静作用、および/またはレム睡眠調節作用を有する薬剤は、MSLTの少なくとも2週間前に中止してください。患者の安全性を損なう可能性のある薬物の変更については、臨床的な判断を下すべきです。患者は、検査前に処方薬または一般用医薬品を開始する前に臨床医に相談してください。
4臨床医は、MSLTの結果に影響を与えないよう、また検査当日のカフェイン離脱症状を避けるため、検査前に許容できるカフェイン摂取量について患者と話し合う必要があります。目標は禁酒であり、必要な場合は禁酒の前に漸減する必要があります。
表1:MSLTの臨床ガイダンスと患者の準備編

MSLTでのMSLの正常範囲を決定することは、さまざまな因子がMSLに関与することにより困難です。これまで報告された健常者のデータを用いて再計算すると、MSL(平均±SD)は、4回法と5回法でそれぞれ10.4±4.3分、11.6±5.2分でした。これを平均±2SDとすると、健常者の平均からの95%値は、4回法と5回法でそれぞれ1.8~19分、1.2~20分となります。健常者における標準偏差が大きく、必ずしも健常者と患者群を区別できません。しかしながら、MSLTは患者群の診断目的に称する際には有効な手法です。小児では検査施行そのものが困難な場合があり、健常者のデータは10歳からのものになります。

MSLに影響する因子として、検査の回数・年齢・前夜の睡眠時間・入眠の判定基準を考慮する必要があります。検査の回数の影響については、前述のように5回法と比較して4回法では有意に短くなります。MSLTでは、特に最終の検査時に入眠潜時が長くなることがあります。この最終回の効果は、4回法よりも5回法で多く見られます。その背景には、被験者の心理的要因(一日中検査のために過ごし、検査からやっと解放されるなど)の影響が考えられており、「last nap effect」と呼ばれます。

年代別にMSLを検討した報告では、50歳代と80歳代のMSLはそれ以下の年代と比較して高値を示し、MSLは10歳ごとに0.6分ずつ延長しました。

MSLの解釈においては、通常の睡眠時間を把握しておくとともに、直前のMSLTにおける総睡眠時間(TST)も考慮する必要があります。睡眠時間を制限し睡眠不足の状態とすると、予想されるようにMSLは低値を示します。しかし、通常の睡眠時間が比較的長い者(TST:451分)と短い者(TST:397分)とで比較すると、MSLは、TSTの短い者が低値を示すどころか、TSTの長い者よりも高値を示しました。MSLTにおけるMSLは、眠気よりも眠りやすさを反映するとも考えられます。

従来は入眠の判定基準として、①最初の睡眠エポック(どの段階でもよい)が出現したときとするか、②十分な睡眠(3エポック以上の睡眠段階1、または睡眠段階1以外のいずれかの睡眠段階)が出現したとき、のいずれかが用いられることが多くありました。MSLは、①の基準と②の基準ではそれぞれ7.4分と8.1分であり、臨床上は問題にならない程度ではありますが、統計学的には有意な差があります。

覚醒と判定される1エポック中に、3秒以上15秒未満の脳波上の睡眠状態(マイクロスリープ)が混在することがあります。このマイクロスリープを加味した評価を行うことにより、より自覚症状に近い眠気の評価が可能との報告がなされています。しかし、2005年のAASMの勧告ではマイクロスリープを入眠の判定に用いていません。

SOREMPの有無、および出現する回数は、ナルコレプシーおよび(特発性)過眠症の診断において有用です。SOREMPが出現した際には、その検査の終了時に夢の内容、入眠時幻覚・睡眠麻痺の有無について確認しておいてください。ただし、SOREMPは必ずしもナルコレプシーに特異的ではありません。睡眠不足状態の若年者や睡眠時無呼吸症候群患者でも、特に午前中の検査時にSOREMPを認めることがあります。

適応

MSLTは、EDSを呈するすべての疾患が対象となります。

情動脱力発作のあるナルコレプシーでは、MSLMSLTで3.1±2.9分でした。MSLTにおいてMSLは8分未満で、SOREMPMSLTで2回以上認められることが多いとされています。

特発性過眠症のMSLTでのMSLは、ナルコレプシーと健常者の中間に位置し、6.2±3.0分と報告されており、多くは8分未満です。

MSLTは、厳格な厳格な手順に基づいて計画・施行することが必要です。健常者と眠気が強い者とを必ずしも区別できないことがある点にも注意を要します。得られた結果の評価を行う際には、眠気や覚醒の程度に影響する諸因子を十分に考慮すること、MSLTの結果を単独で用いて臨床的な診断・決定を行わないことが大切です。

現在のところ、日本ではMSLTの保険請求は認められています。

出典

  • “3.睡眠障害の診断のための補助検査 1)MSLTMWTの方法と判定”.臨床睡眠検査マニュアル.日本睡眠学会.第1版,東京,ライフ・サイエンス,2006年,152-156,.