ナルコレプシーは難病ですが、指定難病(医療費助成の対象)ではありません。
難病医療助成制度の対象疾病(指定難病)と診断された人は、難病にかかる医療費の助成が受けられます。
難病の定義
①発病の機構が明らかでなく、②治療法が確立していない、③希少な疾病であって、④長期の療養を必要とする、という難病の4要件に当てはまるため、ナルコレプシーは難病であると言えます。
指定難病は、さらに難病の定義に加えて、⑤患者数が本邦において一定の人数に達しないこと、⑥診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっていること、という2つの要件が加わります。
難病検討委員会
患者会宛に「ナルコレプシーを指定難病にしてもらうための署名運動を呼び掛けてほしい」という声が寄せられます。
過眠症患者会では、国に難病指定を求める署名集めは実施しておりません。
その理由は、指定難病が新規追加される仕組みによるものです。
指定難病が新規追加される仕組み
指定難病に関する検討は、厚生科学審議会(疾病対策部会指定難病検討委員会)が行います。
指定難病の対象となる疾病に係る考え方として、今までも今後も、公平かつ安定的な仕組みとするため、全ての要件を満たすと判断された難病については、指定難病に指定することが約束されています。
つまり、指定難病に指定されるためには、全ての要件を満たすと判断されるエビデンスを提出すれば良いだけなのです。
制度の公平性・安定性を期するため、指定難病の採択が、請願や署名数に左右されることはありません。これは他の多くの法律も同様です。
ナルコレプシーが指定難病でない理由
指定難病の追加の検討に当たって、検討の対象となるのは、診断基準及び重症度分類等について、研究班が整理した情報に基づき、関係学会の承認を得ている疾病のみです。研究班及び関係学会が整理した最新の情報に基づき、指定難病検討委員会において、指定難病としての要件該当性について評価を行います。
委員会での検討は、研究班の申出に基づきます。ナルコレプシーが議題に上がらない理由は、単純に、検討の申出をされていないからです。
まずナルコレプシーには、指定難病に指定されることを目指して動いている研究班がいません。指定難病になるためには、まず研究班を組み、検討資料となる研究データを収集・整理する必要があります。これについては、関連学会(ナルコレプシーの場合は睡眠学会)の前向きな対応が望まれます。
指定難病の要件
患者数が一定の人数に達しないこと
指定難病の要件の一つに「患者数が本邦において一定の人数に達しないこと」があります。
「一定の人数」とは、難病の患者に対する医療等に関する法律施行規則(平成26年厚生労働省令第121号)第1条において規定している「人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人口をいう。)のおおむね千分の一程度に相当する数」になります。
- 検討会で議論を行う時点で入手可能な直近の情報に基づいて、計算します。※本邦の人口は約1.27億人、その0.1%は約12.7万人(「人口推計」(平成29年12月確定値)(総務省統計局)から)
- 当面の間は、0.15%未満を目安とすることとし、具体的には患者数が18万人(0.142%)未満であった場合には「0.1%程度以下」に該当するものとします。
- この基準の適用に当たっては、上記を参考にしつつ、個別具体的に判断を行うものとします。
人口について
日本の人口は、5年ごとに実施される国勢調査によって明らかにされます。国勢調査が行われない年においては、毎月・毎年の人口の状況を把握するために「人口推計」を行っています。※「住民基本台帳に基づく人口」とは、時点や算出方法が違うのでご注意ください。
人口推計 | 住民基本台帳に基づく人口 | |
---|---|---|
公表 | 総務省統計局 | 総務省自治行政局 |
時点 | 毎年10月1日現在 | 毎年1月1日現在 |
算出方法 | 居住の実態に即した国勢調査結果を基準に、その後の出生児数や死亡者数、出入国者数を加減することで算出した人口 | 住民基本台帳に登録されている情報により集計した人口 |
2024年現在 | 1億2,379万人 | 1億2,488万5,175人 |
患者数の取扱い
希少疾病の患者数をより正確に把握するためには、血液等の検体検査、画像検査等の客観的な指標による診断基準に基づいて診断された国内の患者全てを対象とする全数調査を研究班等で行うことが望ましく、研究班や学会が収集した各種データを用いて総合的に判断します。
ナルコレプシーの患者数
ナルコレプシーについては、MSLT等に基づいて診断された国内の患者全てを対象とする全数調査が行われておらず、正確な患者数を把握できておりません。
十年以上昔の資料になりますが、日本睡眠学会の「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」によると、ナルコレプシー有病率の世界標準は0.04%で、日本人はその4倍の0.16%とされています。この数字は「一定の人数」のボーダーである0.15%と非常に僅差です。こうも惜しい値だと、ナルコレプシーは指定難病になれるのか否か、ぜひ白黒ハッキリさせてほしいところです。
国内の過眠症患者全てを対象とする全数調査を切に望みます!
過眠症の調査研究・患者支援は、いまだ不十分です。支援を必要としている患者さんの正確な人数もわからないでは、医療費助成の検討もできません。
全数調査に踏み切るとすれば、莫大な手間と費用がかかるでしょう。それでも、過眠症患者データベースの整備はおいおい必要だと思います。
患者データベースがあれば、収集した患者データ(診断基準や重症度分類等に係る臨床情報等)を有効活用して、患者に対する医療のための研究を推進することができます。
全数調査の結果、もしナルコレプシーが指定難病の要件を満たさないことがわかっても、決して無駄にはなりません。
計算フォーム
古い有病率(概算0.16%)に基づくと、日本全国に約20万人のナルコレプシー患者がいると推定されます。
ぜひ自分でも計算してみてください!日本の人口は1億2,379万人(「人口推計」(令和6年10月概算値)(総務省統計局)から)固定値とします。※日本の人口は年々減っています。
日本の人口(人)×(%)×0.01=患者数(人)※人に1人の割合
ナルコレプシー以外の過眠症について
指定難病の検討に当たっては、もちろんナルコレプシーだけでなく、特発性過眠症やクライネ・レビン症候群等についても同様の対応が望まれます。
しかし、特発性過眠症やクライネ・レビン症候群は、ナルコレプシーよりずっと研究調査が進んでおらず、正確な患者数の把握、客観的な診断基準、という要件のクリアが難しいかもしれません。
ちなみに、クライネ・レビン症候群は「百万人に一人の希少疾患」と言われています。日本の人口の百万分の1(0.0001%)とすると、全国に100人程度しかいないはずですが、患者会の在籍人数をみると、実際の診断数はもっと多そうです。
もし指定難病として検討されるならば、過眠症疾患の中では、ナルコレプシーが最も早く実現の可能性があると思い、ナルコレプシーをピックアップしました。
引用文献
第53回厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会(令和5年12月27日)第1回社会保障審議会小児慢性特定疾病対策部会小児慢性特定疾病検討委員会(合同開催)資料1-2「厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会における指定難病に関する検討の基本方針」(ファイル名:001184721.pdf、ファイルサイズ:304 KB、作成者:原 美朋(hara-miho.6r2)、作成日:2023/12/26 13:01:52、変更日:2023/12/26 13:01:52、場所:https://www.niph.go.jp/h-crisis/wp-content/uploads/2023/12/001184721.pdf、ページ数:7、ページ サイズ:280 × 396 mm (縦))
「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」(ファイル名:narcolepsy.pdf、ファイル サイズ:475 KB、作成日:2010/3/31 21:06:13、変更日:2010/6/1 10:01:20、作成者:日本睡眠学会、場所:https://jssr.jp/files/guideline/narcolepsy.pdf、ページ数:22、ページサイズ:280 × 396 mm (縦))
「人口推計」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html)(2024年10月21日公表)