ナルコレプシーとは

ナルコレプシーは年齢を問わずに発症し、生涯にわたって症状が続く、慢性的な神経疾患です。睡眠障害の一種であり、不規則なレム睡眠パターンや、正常な睡眠・覚醒サイクルの著しい乱れを伴います。

一般的には10代前半から20代前半に発症しますが、それ以降に発症する場合もあります。ナルコレプシーの有病率は、アメリカでは約2,000人に1人の割合であるとされています。男女を問わず世界中で発症しますが、まだまだ認知度や診断率は低いのが現状です。発症後の症状は安定しており、ほとんどの場合、効果的な治療法があります。また、寿命にも影響しません。

ナルコレプシーの特徴は、レム睡眠の異常です。覚醒状態にレム睡眠が割り込んだり、覚醒から睡眠への移行時にレム睡眠が割り込んだりします。ナルコレプシーの症状の殆どは、レム睡眠に関連するものです。

ナルコレプシー1型

カタプレキシーを伴うナルコレプシー1型は、脳の視床下部にあるヒポクレチン産生細胞が破壊されることで発症します。ヒポクレチン(オレキシンとも呼ばれる)は、睡眠・覚醒サイクルやその他の身体機能(血圧や代謝など)の調節に関与する神経伝達物質です。カタプレキシーを伴うナルコレプシーは、自己免疫疾患の一つです。

ナルコレプシー2型

カタプレキシーを伴わないナルコレプシー2型の正確な誘因については、さらなる研究が必要です。

ナルコレプシーの診断方法

ナルコレプシーの診断は、通常、睡眠外来で一泊二日の検査入院を実施して確定されます。まず、日中の過度の眠気(EDS)の他の原因を除外し、異常なレム睡眠パターンを検出するために、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施します。続いて、睡眠潜時反復検査(MLST)または覚醒維持検査を行い、入眠の早さと、レム睡眠が何回起こるかを測定します。MLSTは、ナルコレプシーの診断方法として最も広く受け入れられている検査です。また、ナルコレプシーの遺伝的素因を調べるために、血液検査が行われることもあります。脳脊髄液(CSF)中のヒポクレチンの濃度を測定する検査方法もありますが、髄液検査まで行うことはめったにありません。

診断・統計マニュアル(DSM-V)では、ナルコレプシーを「ナルコレプシー1型(カタプレキシーを伴うナルコレプシー)」と「ナルコレプシー2型(カタプレキシーを伴わないナルコレプシー)」に分類しています。

症状は以下の通りです。

有病率

ナルコレプシーの有病率の世界平均は、0.05%(2,000人に1人)です。

そのうち、日本人のナルコレプシー有病率は0.16%(600人に1人)で、世界一高いとされています。一方、イスラエルのナルコレプシー有病率は0.0023%(4万人に1人以下)で、世界一低いとされています。アメリカやヨーロッパでは、概ね世界平均に近いのに対し、サウジアラビアは欧米の1/10です。また、病院で治療を受けている患者のうち、男性の方が比率が高くなっています。ナルコレプシーの有病率に、人種による違いや性差はないと考えられていますが、なぜ、このような偏りが生じているのでしょうか?

まず、この数字のエビデンスとされている疫学研究のnは、わずか1,800人(30歳~57歳)で、しかも一般住民対象の疫学データではありません。千人に一人の有病率研究は、少なくとも1万人のnが必要です。また、国によって保険制度・病院事情は大きく異なります。国民皆保険で、安全に病院を受診できる日本のような国もあれば、経済格差が大きかったり、治安が悪かったり、国によっては、いまだ戦争と隣り合わせの地域もあることを忘れてはなりません。また、男性の方が女性より社会的に露出する機会が多いため、ナルコレプシーの症状が発覚しやすい、という社会的な背景もあります。このように、複雑な事情を反映した結果、日本だけが、世界平均の4倍と突出するかたちになっています。今後、調査方法や診断基準を標準化したうえで、本格的な疫学調査が実施されることを期待します。

計算式:100(%)÷有病率(%)=○人に1人

発症年齢

思春期から青年期(10代前半から20代前半)にかけて発症する例が多いですが、小児でも高齢者でも、全年齢で発症する可能性があります。

症状

ナルコレプシーの主症状5つの頭文字をとって「CHESS(チェス)」と覚えましょう。ナルコレプシーの患者は、ほぼ全員が眠気を訴えますが、五大症状すべて当てはまる方は、患者全体の一割未満です。問診でこれらの症状を深く掘り下げると、ナルコレプシー患者を炙り出せる場合があります。

Cataplexyカタプレキシー(情動脱力発作)

ナルコレプシー患者の65%~75%が訴える症状です。ナルコレプシー1型の最も特徴的な症状で、この病気にほぼ固有のものです。笑いや驚き、恐怖、怒りなどの「感情」がこみ上げると、突然、短時間(2分未満)、意識を保ったまま筋緊張が失われます。情動脱力発作は、覚醒している時に起こり、脱力感と筋肉の自発的な制御ができなくなります。ストレスや疲労がたまっていると起こりやすくなります。発作は、体の一部分にわずかな脱力感(顔の筋肉のたるみ、頭のうなずき、膝が曲がる、呂律の乱れなど)があるだけの人もあれば、即座に全身が弛緩し倒れる人もいます。情動脱力発作に見舞われた人は、意識がないように見えても、しっかり目が覚めていて注意力があります。発作は数秒から数分で回復します。情動脱力発作は、夢を見ているときなど、レム睡眠に伴う筋緊張の抑制メカニズムと関連しています。情動脱力発作では、この保護機能が覚醒時に誤作動するものと考えられています。

Hallucinationsハルシネーション(入眠時幻覚)

ナルコレプシー患者の33%~80%が訴える症状です。入眠時幻覚は、入眠時に起こる鮮明な夢のような体験のことです。しばしば恐ろしい悪夢です。目覚めているときに起こる場合は、出眠時幻覚と呼ばれます。これらの現象には、睡眠麻痺(金縛り)を伴うこともあります。

Excessiveエクセッシブ daytimeデイタイム sleepinessスリーピネス(日中の過度の眠気)

ナルコレプシー患者のほぼ100%が訴える症状です。日中の過度の眠気とは、日中、起き続けていることができず、注意力が散漫になったり、無性に眠たくなったり、意に反して眠り込んでしまったりする症状です。日中の過度の眠気は、ナルコレプシーの最も有名な症状であり、多くの場合、最も支障ある症状です。脳霧(ブレイン・フォグ)、エネルギーの欠如、慢性的な疲労感、などとも表現されます。前触れなく起こる睡眠発作や、制御不能な眠気、長時間続く持続的な眠気など、感じ方・表現はさまざます。また、多くの人が日中の過度の眠気(EDS)の一環として、マイクロスリープ(覚醒状態に割り込んでくる、一瞬の無意識の睡眠)を経験します。ナルコレプシーの人(person with narcolepsy; PWN)は、日中の過度の眠気(EDS)の症状が再発する前に、短時間の仮眠をとることで、一時的に発作を抑えることができます。

Sleepスリープ paralysisパラリシス(睡眠麻痺)

ナルコレプシー患者の25%~50%が訴える症状です。睡眠麻痺(金縛り)は、睡眠と覚醒の切り替え時に、一時的に、随意筋を動かしたり、言葉を発したりすることができない状態になる症状です。多くの場合、入眠時幻覚と同時に起こります。

Sleepスリープ disruptionディスラプション(夜間の睡眠障害)

ナルコレプシー患者の30%~95%が訴える症状です。睡眠分断(夜間の睡眠障害)とは、頻繁に目が覚めてしまい、睡眠の質が低下する症状です。ナルコレプシーは、睡眠と覚醒の状態が不安定な病気なので、多くの患者さんが夜間睡眠の悩みを訴えます。中途覚醒、鮮明な悪夢、寝言、および四肢運動障害などによって、よく眠れないこともあります。ナルコレプシーの人は通常、寝つきは悪くありません。

治療薬

  • 日中の眠気症状に対して:モダフィニル(モディオダール)、メチルフェニデート(リタリン)、ペモリン(ベタナミン)など精神刺激薬
  • 情動脱力発作(カタプレキシー)・レム睡眠関連症状に対して:三環系抗うつ薬(クロミプラミン、イミプラミン)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(ミルナシプラン)など

ナルコレプシーの基礎知識

  • ナルコレプシーは、2,000人に1人の割合で発症すると言われています。これは、アメリカでは20万人、世界では約300万人に相当します。
  • ナルコレプシーと診断され、きちんと治療を受けている人は、全体の25%に過ぎないと言われています。
  • ナルコレプシーの症状には、日中の過度の眠気、睡眠発作、情動脱力発作(カタプレキシー)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚、夜間の睡眠障害などがあります。
  • 情動脱力発作(カタプレキシー)とは、強い感情によって筋肉の緊張が急激に失われる現象です。筋緊張は、私たちの体を直立させ、動かすためのものです。筋緊張がなければ、私たちは糸の切れた操り人形のように崩れ落ちてしまいます。情動脱力発作(カタプレキシー)の発作は、全身が倒れるような極端なものから、口元が緩む軽度のものまで、重症度に幅があります。必ずしもすべてのナルコレプシー患者が情動脱力発作(カタプレキシー)を経験するわけではありません。
  • 情動脱力発作(カタプレキシー)を伴うナルコレプシーは、「ナルコレプシー1型」と呼ばれます。また、情動脱力発作(カタプレキシー)を伴わないナルコレプシーは、ナルコレプシー2型と呼ばれます。
  • ナルコレプシーは通常、10歳から30歳の間に発症し始めることが多いですが、どの年齢でも発症する可能性があります。
  • ナルコレプシーは、疲労感などの症状が多くの疾患と共通しているため、診断が難しいと言われています。症状が出てから診断されるまでには、平均で約7年かかります。
  • ナルコレプシーの診断には、睡眠検査が必要です。睡眠検査は、睡眠外来に一泊して行う検査入院です。
  • 誤診はよくあることです。最近の研究では、60%の患者が誤診の経験がありました。誤診で最も多かったのは、うつ病(患者の約3分の1)で、次いで不眠症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群でした。
  • ナルコレプシーは、ヒポクレチン(オレキシン)と呼ばれる脳内の化学物質が失われることで発症することがわかっています。ヒポクレチン(オレキシン)とは、睡眠・覚醒サイクルの調節や、血圧や代謝などの身体機能の調節に関わる神経伝達物質です。
  • ヒポクレチンが失われる原因はまだ解明されていませんが、現在の研究では、免疫系に影響を与える遺伝的要因と環境的要因が組み合わさっていることが指摘されています。
  • ナルコレプシーに関連する遺伝子は特定されています。米国の一般人口の約4分の1がナルコレプシーの遺伝子マーカーを保有していますが、ナルコレプシーを発症するのは、このうち約500人に1人だけです。
  • ナルコレプシーは、薬やライフスタイルの調整によって治療することができます。

ナルコレプシーの歴史

1880年ナルコレプシーの発見
フランスの医師ジャン=バティスト=エドゥアール・ジェリノー(1828-1906)が、初めてナルコレプシーを独立疾患として記載。
1916年情動脱力発作(カタプレキシー)の命名
ヘンネベルクが情動脱力発作(カタプレキシー)と命名。
1919年~
1925年
嗜眠性脳炎(エコノモ脳炎)の流行
1953年レム睡眠の発見
シカゴ大学の睡眠研究者ユージン・アセリンスキー(1921-1998)が、7歳の息子の眼球運動を観察し、レム睡眠を発見。
1960年ナルコレプシーの四大症状を定義
メイヨークリニックの医師らが、ナルコレプシーの四大症状、①睡眠発作、②情動脱力発作、③睡眠麻痺、④入眠時幻覚を定義。
1960年入眠時レム睡眠の発見
フォーゲルが、ナルコレプシー患者は入眠時レム睡眠があることを発見(sleep onset REM period: SOREMP)。
1963年日本の医師高橋康郎・神保眞也らが、睡眠麻痺と入眠時幻覚は、入眠時レム睡眠を背景として生じている現象であることを発見。
1965年日本の医師菱川泰夫・金子仁郎らが、レム睡眠を抑制する作用のある@@@@三環系抗うつ剤が、情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚などの治療に有効であることを発見。
1973年犬のナルコレプシー発見
偶然、餌で誘発された情動脱力発作を有する犬を発見。
スタンフォード大学の研究院らが、同様の犬の交配を開始。
1977年ナルコレプシー犬(ドーベルマン)誕生
浸透率100%で常染色体劣性遺伝する犬ナルコレプシー(ドーベルマン)モデル誕生。
※現在でもこのモデル動物を使ったナルコレプシーの研究が続けられている。
1983年ナルコレプシーに関連する遺伝子を発見
日本の本多医師らが、ヒトナルコレプシーでHLA-DR2がほぼ100%陽性であることを発見。ナルコレプシーが自己免疫疾患であることを証明。
1998年オレキシン(ヒポクレチン)の発見
日本の桜井らが、神経ペプチド・オレキシン(ヒポクレチン-1)を発見。
1999年ナルコレプシーの原因がオレキシンにあることを動物実験で証明
動物実験により、オレキシン欠損が情動脱力発作を引き起こすことと、ナルコレプシーの原因がオレキシン受容体遺伝子の異常であることを発見。
2000年ナルコレプシーの原因がオレキシンにあることをヒトで証明
日本の西野が、ヒトのナルコレプシー患者について、髄液中のオレキシン値が低値ないし測定限界以下であることを発見。