同義語
- ナルコレプシー1型
- ナルコレプシータイプ1
- オレキシン(ヒポクレチン)欠乏症候群
ナルコレプシー-カタプレキシー情動脱力発作を伴うナルコレプシー
診断基準
- A
- 耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3カ月間続く。
※幼児においては、ナルコレプシーの症状が夜間睡眠が非常に長くなること、あるいはすでにやめていた日中の昼寝習慣が再開することとして現れる場合がある。
基本的な特徴
ナルコレプシー1型の特徴は、
- 日中の過度な眠気
- レム睡眠乖離の兆候
であり、後者の中で最も特異的なものが情動脱力発作です。ナルコレプシー1型は、視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)神経伝達の欠落によって生じることが、現在では十分に確立されています。脳脊髄液(CSF)中のオレキシンA濃度が低値あるいは検出不能である患者は、単一の病因をもち、比較的均一な臨床特徴や睡眠ポリグラフ検査の特徴を示す明確な患者集団を成します。眠気があり、CSF中のオレキシンA濃度が低値あるいは検出不能である患者は、情動脱力発作の症状がみられなくても、ナルコレプシー1型と分類されます。
①日中の過度の眠気
基本症状であり、多くの場合、最も生活に支障をきたすものです。ナルコレプシー1型の患者は、耐え難い睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことを繰り返します。多くの患者は睡眠エピソードからスッキリと目覚めますが、しばらく時間が経つと再び眠気を催し始めます。眠気は、受動的で単調な状況で最も生じやすいとされます。例えば、テレビを観たり、乗客として車に乗ったりする状況などです。身体を動かすことで、一時的に「眠りたい」という衝動が抑えられる場合があります。
②睡眠発作
眠気が突然の耐え難い睡眠「発作」の形をとってあらわれ、食事中や歩行中など、通常眠るはずがない状況で生じる場合もあります。睡眠発作は、全般的な眠気が背景にある場合によくみられます。
③自動症
ナルコレプシー患者の多くは、起きているように見えるときにも覚醒状態が途切れることがあり、例えば、訳のわからない文章を書いたり、完全に異なる話題で会話に割り込んだりといった自動症を伴うときもあります。社会的、教育上、職業生活上の場面での患者の遂行能力は、一般に眠気によって深刻な影響を受けます。
③情動脱力発作
患者が情動脱力発作中に診察を受けることは稀であるため、情動脱力発作があるかどうかは、臨床的な面接のみに基づいて判断されなければなりません。情動脱力発作は、①意識が保持された状態で、②一般に短時間(2分未満)、③通常は両側対称性に生じる突然の筋緊張喪失のエピソードであり、④それを2回以上経験したことがあるもの、として定義されます。発作のエピソードは、通常はポジティブな強い情動をトリガーとして生じ、ほとんどすべての患者は、大笑いをきっかけにエピソードが起こったことがあると述べています。発作中には、一過性で可逆的な深部腱反射消失が生じ、もし観察されれば強力な診断を裏付ける所見となります。
小児の場合(稀には成人でも)…発症後間もない時期には、情動とは明確に関連せずに、眼瞼が垂れ、口を開き、舌を突出させるような顔面(あるいは全身)の筋緊張低下、あるいは歩行の不安定という形で、情動脱力発作が現れる場合があります。顔面や咀嚼筋の不随意運動が生じる場合もあります。小児では、ご褒美がもらえると期待することも、よく発作のトリガーとなります。小児から情動脱力発作の既往を聞き出そうとする場合、小児に合わせた文脈や言葉を用いることが重要です。
- 情動脱力発作の表現型は患者ごとに大きく異なり、大笑いのときにだけ部分的な脱力発作が生じる場合から、さまざまな感情をきっかけに崩れ落ちるような完全な脱力発作が頻繁に生じる場合まであります。
- 情動脱力発作の圧倒的多数はシンメトリー性ですが、時に身体の片側により強く発作が生じると訴える患者もいます。
- 部分的な発作が非常に軽く、患者のパートナーなど経験豊富な観察者だけにしかわからない程度のこともあります。
- 首に力が入らないことや、頭が落ちるという訴えもよくみられ、また、顔に力が入らないと、顎が落ちたり、呂律が回らなくなったりすることがあります。
- 発作中に呼吸困難になると述べる患者もいますが、呼吸筋が脱力発作に影響されることはありません。
- 発作は突然始まり、特に完全に末梢の筋緊張喪失が生じて崩れ落ちる発作では、数秒かけて発作が完成します。
- 陽性の不随意運動がみられることは稀ではなく、特に顔面においては、筋肉が攣縮したり、小さくピクついたりします。
- さまざまな感情が情動脱力発作を引き起こす可能性はありますが、通常は笑いに伴う情動が最も強いトリガーとなります。大声で笑うこと、冗談を言うこと、あるいは機知に富んだコメントをすることが、その典型的な例です。
- 情動脱力発作の頻度…月に1回未満から、1日20回を超えるものまでさまざまです。
- 情動脱力発作の持続時間…一般に短く、瞬く間であり、発作の圧倒的多数は持続が2分未満です。しかし、特異的なトリガーが持続する場合、立て続けに発作が生じて互いに融合し、ひとつの長いエピソードのようにみえることがあります。
- 抗情動脱力発作の薬物療法…特に抗うつ薬を急に中断すると「情動脱力発作重積状態」となり得ます。この場合は、長く続く発作が実質的に連続して生じます。
随伴特徴
ナルコレプシー1型の患者は、眠気と情動脱力発作に加えて、その他の症状を訴えることがしばしばみられますが、この疾患に特異的なものではありません。夜間睡眠の分断化を訴える患者は多く、時にそれが主訴となることがあります。睡眠開始が問題になることは稀ですが、持続的睡眠を維持できないことは非常によくみられます。33%から80%のナルコレプシー患者が入眠時幻覚や睡眠麻痺(金縛り)を合併します。
入眠時幻覚
入眠時幻覚は、覚醒から睡眠への移行時に生じる鮮明な夢様体験として定義されます。入眠時幻覚は、通常は多様的な、あるいは「全人的な」性質をもち、視覚的・聴覚的・そして触覚的な知覚現象を兼ね備えたものであることが多いとされます。睡眠から覚醒への移行時に生じる、出眠時幻覚も同様です。
睡眠麻痺(金縛り)
睡眠麻痺(金縛り)は、睡眠・覚醒の移行時に、一時的に随意筋を動かせなくなる嫌な体験を表現しています。覚醒し、自分が寝床に就いている状況を意識しているにもかかわらず、手足を動かしたり、まぶたを開けることさえできません。この体験は数分間継続する場合があり、とても苦悩に満ちた体験となり得ます。
その他の症状として、眼瞼下垂、目のかすみ、複視もみられますが、おそらくは眠気の結果として生じるものです(眼の異常ではありません)。
肥満
疫学研究からは、ナルコレプシーには肥満がよくみられる症状であることが示されています。発症の頃に、しばしば説明できないような体重増加が観察されます。肥満(体格指数(BMI)30kg/㎡以上と定義される)が、ナルコレプシー患者群では、対照群の2倍以上生じます。
その他の睡眠障害
またナルコレプシーにおいては、寝言、周期性四肢運動障害(PLM)、睡眠関連呼吸障害(SRBD)、レム睡眠行動障害(RBD)など、他の睡眠異常の合併頻度が増加することも示されています。
精神症状
抑うつ症状の有病率も増えますが、その症状がどれくらい臨床的なうつ病の診断基準を満たすかについては相反する報告があります。最近の研究では、パニック発作や社会恐怖症が約20%にみられるなど、ナルコレプシー患者には不安障害が高い頻度でみられることが指摘されています。
疲労
半数以上の患者は、眠気と区別し得る重度の疲労を訴えます。
臨床的・病態生理学的亜型
①身体疾患によるナルコレプシー1型
この状態は、主に中枢神経系疾患に関連するもので、自己免疫、あるいは抗Ma2抗体や抗アクアポリン4抗体と関連する腫瘍随伴症、腫瘍、その他の視床下部に病変をきたすものが含まれます。さらに重度の頭部外傷後に生じる眠気と関連して、オレキシンA(ヒポクレチン-1)濃度が測定限界以下となる場合があることも報告されています。この疾患は他の身体疾患に起因し、ナルコレプシー1型の診断基準を満たさなければなりません。
②脳脊髄液(CSF)オレキシンA濃度が低値である情動脱力発作を伴わないナルコレプシー
情動脱力発作がなくても、診断基準AとB2が満たされれば、ナルコレプシー1型と診断されるべきです。
患者統計(有病率)
情動脱力発作を伴うナルコレプシーは、アメリカ・ヨーロッパでは、一般人口の0.02%から0.18%に認められます。イスラエルでは有病率がより低いと報告され、一方日本では、情動脱力発作を伴うナルコレプシーはやや高い(0.16%から0.18%)可能性があります。男女とも罹患しますが、男性の方が若干多いとされています。
ナルコレプシーの有病率の世界平均は、0.05%(2,000人に1人)です。
そのうち、日本人のナルコレプシー有病率は0.16%(600人に1人)で、世界一高いとされています。一方、イスラエルのナルコレプシー有病率は0.0023%(4万人に1人以下)で、世界一低いとされています。アメリカやヨーロッパでは、概ね世界平均に近いのに対し、サウジアラビアは欧米の1/10です。また、病院で治療を受けている患者のうち、男性の方が比率が高くなっています。ナルコレプシーの有病率に、人種による違いや性差はないと考えられていますが、なぜ、このような偏りが生じているのでしょうか?
まず、この数字のエビデンスとされている疫学研究のnは、わずか1,800人(30歳~57歳)で、しかも一般住民対象の疫学データではありません。千人に一人の有病率研究は、少なくとも1万人のnが必要です。また、国によって保険制度・病院事情は大きく異なります。国民皆保険で、安全に病院を受診できる日本のような国もあれば、経済格差が大きかったり、治安が悪かったり、国によっては、いまだ戦争と隣り合わせの地域もあることを忘れてはなりません。また、男性の方が女性より社会的に露出する機会が多いため、ナルコレプシーの症状が発覚しやすい、という社会的な背景もあります。このように、複雑な事情を反映した結果、日本だけが、世界平均の4倍と突出するかたちになっています。今後、調査方法や診断基準を標準化したうえで、本格的な疫学調査が実施されることを期待します。
計算式:100(%)÷有病率(%)=○人に1人
素因・誘因(原因)
症例報告では、
- 頭部外傷
- 持続的な睡眠不足
- 非特異的なウイルス性疾患
- 睡眠・覚醒パターンの突然の変化
など、未確認ながらいくつかの誘因が示唆されています。
ナルコレプシー発症に季節性があると指摘する研究もいくつかあり、特定の環境因子があることを示しているのかもしれません。
最近の研究では、β溶血性連鎖球菌(溶連菌)に対する抗体価上昇が示され、抗体価がナルコレプシー発症期に最大で、罹患経過につれて低下することから、連鎖球菌感染が発症トリガーとなる環境因子のひとつかもしれません。
ナルコレプシー1型がH1N1型インフルエンザに対するワクチン接種後に生じるとの報告がありますが、明確な因果関係は確立されていません。
抗トリブル・ホモログ2抗体は、自己免疫性ブドウ膜炎の患者の一部にみられるものですが、ナルコレプシー患者の14%から26%にも存在します。しかし、その意義ははっきりしていません。
家族内発現形式(遺伝)
遺伝子レベルでは、情動脱力発作を伴うナルコレプシーは、ヒト白血球抗原(HLA)のサブタイプであるDR2/DRB1*15:01およびDQB1*06:02と密接な関連を示します。この二つの遺伝子型は、白人とアジア人では常に同時に見出されますが、黒人ではDQB1*06:02がより特異的にナルコレプシーと関連しています。一般人口の中で、このHLAのサブタイプをもつのは12%から38%であるのに対し、情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者のほぼ全てはDQB1*06:02遺伝子型が陽性です。他のHLAサブタイプも、それほど顕著ではありませんが関連を示しています。たとえば、DQB1*03:01遺伝子型はナルコレプシーの感受性を高めますが、DQB1*05:01、DQB1*06:01などの遺伝子型は、DQB1*06:02存在下でナルコレプシー発症に抵抗性を示します。全ゲノム遺伝子関連解析では、ナルコレプシーとT細胞受容体α遺伝子座、腫瘍壊死因子(TNF)-α2、TNF受容体2の多型との関連が示され、同様にプリン受容体P2Y11遺伝子との関連も見出されています。
家族内発症の有病率は低いといえます。患者の第一度近親者におけるナルコレプシー1型の発症リスクはおよそ1%から2%です。一般人口中の有病率と比べると、この値は10倍から40倍の上昇です。この発症危険性上昇は、HLA遺伝子の効果のみでは説明できないため、それ以外の遺伝因子の存在が示唆されています。2人を超える罹患家族がいる多発家系は稀です。こうした家族例では、多くの場合、脳脊髄液(CSF)オレキシン(ヒポクレチン)濃度は正常であり、HLA-DQB1*06:02との関連は、孤発性ナルコレプシーと比べ、ずっと弱いものとなります。これまでのところ、プレプロオレキシン(プレプロヒポクレチン)の遺伝子変異を伴うナルコレプシー1型は、1例が報告されているのみです。
発症・経過・合併症
発症
発症は通常5歳以降で、最も典型的なのは10歳〜25歳の間です。しかし、二峰型の発症年齢分布が報告される集団もあり、その集団では、
- 第一のピークが思春期(15歳)
- 第二のピークが35歳
と報告されています。最近の研究では、幼児におけるナルコレプシー、特に情動脱力発作が、やや異なる表現型をし得ることが強調されており、結果として診断が遅れ、発症年齢が誤って高く推測されているのかもしれません。
経過
通常、眠気が最初に現れる症状です。情動脱力発作は、発症1年以内に生じることが最も多いようですが、稀に眠気発症の前に認められたり、40年も経過した後に生じたりすることがあります。入眠時幻覚、睡眠麻痺、夜間睡眠障害は罹患経過の後になって現れる場合が多いようです。
多くの場合、症状は数年かけて徐々に進展します。臨床症状が十分そろった後は、重症度はわずかに変動する程度となるのが通例です。情動脱力発作は加齢と共に軽減し得ますが、時に頻度や重症度が増悪する場合もあります。
合併症
ナルコレプシー1型の患者は、治療しないままでいると、社会的な機能障害が生じ、孤立することが多いようです。患者は成績不振を呈しやすく、よく仕事を解雇されます。自動車事故を恐れて、運転を避けることもあります。夜間眠れないことで、患者はさらに自分のスケジュールを管理できなくなることがあります。うつ病と体重増加もよくみられます。
発達上の問題
近年、小児期におけるナルコレプシーの臨床表現型に注目が集まっています。情動脱力発作を伴うナルコレプシーは、4歳未満では稀です。小児では臨床症状の表現型が成人とは異なる場合があります。
幼児では…眠気を評価するのが難しい場合があり、過度に長い夜間睡眠として、あるいは既にやめていた日中のお昼寝習慣の再開として眠気症状が現れることがあります。
小児では…逆説的に多動や行動上の問題、学業成績の低下を呈することもあります。不注意、エネルギーの欠乏、不眠、奇妙な幻覚、あるいはその組み合わせの症状により、統合失調症やうつ病といった精神疾患に誤診される場合があります。
小児では、その子の言語能力によって、例えば睡眠麻痺や入眠時幻覚といった随伴症状の存在を確認するのが難しい場合があります。性的な早熟と肥満も症状発症と同じ頃に始まることがあります。レム睡眠行動障害(RBD)や筋弛緩を伴わないレム睡眠も、症状発症の時点で現れることがあります。
情動脱力発作は疾患の発症期には非常に重篤となる場合があり、成人期にみられる典型的なエピソードと表現型が異なるようにみえます。陽性の情動がトリガーとなる典型的な発作に加えて、小児では情動とはっきり関連せずに、顔面、眼瞼、口を含めた筋緊張低下を呈する場合があります。舌を突出させることと合わせて、この特徴的な筋緊張低下パターンは、「情動脱力発作貌(じょうどうだつりょくほっさぼう)」と名付けられています。情動脱力発作のある小児は、口周囲のジスキネジア様あるいはジストニア様の運動から、明らかな常動症まで、多岐にわたる陽性の不随意運動症状も呈することがあります。小児では、ご褒美を期待することも情動脱力発作を引き起こす要因となります。
小児におけるナルコレプシー1型の診断は、睡眠潜時反復検査(MSLT)を施行することが難しく、さらに6歳未満の小児についてMSLTの基準値はないために困難な場合があります。MSLTが曖昧な結果であれば、時間をおいて再検査することが有益かもしれません。これらの困難を考えれば、脳脊髄液(CSF)オレキシンAの測定は特に価値があります。オレキシンAの濃度は、小児でも発症後非常に短期間で低値あるいは測定限界以下となるからです。
病理・病態生理
ナルコレプシー1型がオレキシン(ヒポクレチン)神経伝達の欠乏によって引き起こされることは、現在では十分に確立された知見であり、最も可能性の高い原因は、視床下部のオレキシン産出細胞の選択的消失です。オレキシンの神経伝達が欠落したいくつかの動物モデルがナルコレプシー症状を呈することから、因果関係があると示唆されています。大部分(90%〜95%)の情動脱力発作を伴うナルコレプシーの患者は、脳脊髄液(CSF)中のオレキシンA濃度が測定限界値以下あるいは110pg/mL以下の低値を示します。情動脱力発作を伴わないナルコレプシーの患者でも、頻度ははるかに低いものの、同様にオレキシン欠乏が生じることがあり、それゆえナルコレプシー1型として分類されます。ナルコレプシーにおけるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子型との強い関連から、自己免疫が起こり得る病因機序であるとの仮説が提唱されており、これにより視床下部における選択的な神経傷害を説明できます。しかし、自己免疫についての明確な証拠は得られていません。
客観的な所見
ナルコレプシー1型は、本質的にはオレキシン(ヒポクレチン)欠乏症候群として定義されています。これは臨床診断基準に客観的な測定結果が必要であることを意味しています。生涯にわたって依存の可能性をもつ薬物療法を続けなければならないという事実は、この必要性をさらに強め、客観性をもった診断確認の重要性を強調するものです。
睡眠不足、交代勤務、その他の概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD)によって睡眠潜時反復検査(MSLT)の結果に偏りを生じていないかを確認するために、少なくともMSLTに先立つ1週間の睡眠日誌とアクチグラフ記録を行うことが強く推奨されます。ナルコレプシー1型の患者は、MSLTにおける平均睡眠潜時が8分未満を示し、典型的には5分未満です。メタ解析によれば、情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の平均睡眠潜時は3.1±2.9分です。さらに、2回以上の睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が存在しなければなりません。夜間睡眠の開始から15分以内に生じるSOREMPは、他の睡眠障害が存在しなければ、ナルコレプシーに非常に特異的な所見ではありますが、感度は低いことが最近のデータで示唆されています。そのためナルコレプシー1型の診断基準では、MSLTにおける1回分のSOREMPを前夜の睡眠ポリグラフ記録におけるSOREMPによって「代替(※だいたい:他のもので代えること)」できることとしました。MSLT所見を正確に解釈するためには、記録は以下の条件で行わなければなりません。
- 患者は睡眠に影響し得る薬物を少なくとも14日間(あるいは、その薬物より長時間作用する代謝産物の半減期の、少なくとも5倍以上の期間)服用していないこと、これを尿中の薬物スクリーニングで確認すること
- 睡眠・覚醒スケジュールが一定になっており、必要であれば睡眠ポリグラフ検査前の少なくとも7日間以上、最低でも毎晩7時間寝床にいるように(小児ではより長く)延長させること(これは睡眠日誌で、そしてできる限りアクチグラフ検査でも実証されることが望ましい)
- 睡眠ポリグラフ検査はMSLT直前の夜に行い、ナルコレプシー1型の診断特徴と似た症状を呈し得る他の睡眠傷害を除外すること
睡眠ポリグラフ検査中の睡眠時間はできる限り削減されないようにすべきで、少なくとも7時間とれることを目標としてください。終夜睡眠ポリグラフ記録では、睡眠段階N1の量が増加を示す場合があり、また頻回の中途覚醒により夜間睡眠パターンの分断化が生じる場合があります。また、筋緊張消失を伴わないレム睡眠が存在する場合があります。
脳脊髄液(CSF)オレキシンA濃度の測定は、ナルコレプシー1型の診断に非常に特異的で、感度の高い検査です。オレキシンAは、市販のラジオイムノアッセイ法を用いて未処理のCSFで濃度測定ができます。スタンフォード大学の基準検体を用いた場合、濃度が110pg/mL未満であることが非常に特異的です。
鑑別診断のポイント
情動脱力発作
情動脱力発作がない場合でも、過眠症状の存在と脳脊髄液(CSF)オレキシン(ヒポクレチン)低値に基づいて、ナルコレプシー1型と診断することができます。情動脱力発作がなく、CSFオレキシンA濃度が正常あるいは不明の場合は、「ナルコレプシー2型」と診断すべきです。
情動脱力発作は、ときに健常者に観察される情動脱力発作様のエピソードとは区別しなければなりません。たとえば、健常者は、大笑いしたときに筋肉の力が弱くなる感覚を報告することがあります。真の情動脱力発作では、エピソードはかなりの頻度で生じることが多く、筋緊張喪失を伴います。情動脱力発作は、低血圧、一過性脳虚血発作、転倒発作、無動発作、神経筋疾患、前庭神経障害、心理的あるいは精神的な疾患、そして睡眠麻痺と区別されなければなりません。もし抗うつ薬治療における明確な改善があれば、判断が難しい症例において、情動脱力発作の診断を支持するものになります。
眠気は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、睡眠不足症候群、交代勤務障害、薬物または物質の影響、その他の睡眠障害に続発するものかもしれません。これらの状態の多くは、レム睡眠の早期発現をもたらすことがあります。情動脱力発作がある場合は、これらの障害があっても、ナルコレプシー1型の診断は除外しません。そのような症例において、情動脱力発作を疑わせる既往があれば、睡眠潜時反復検査(MSLT)施行前に合併症状を十分に治療するか、あるいはCSFオレキシンA濃度を測定すべきです。
特発性過眠症は、情動脱力発作が存在せず、MSLTで2回以上の睡眠開始レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が生じないことにより、ナルコレプシー1型とは区別されます。ナルコレプシー患者とは対照的に、特発性過眠症の患者は、一般的に高い睡眠効率を示し、睡眠酩酊や、爽快感を伴わない長い昼寝をします。
睡眠不足症候群は、情動脱力発作は存在せず、睡眠時間を正常化すると日中の眠気が消失します。
慢性疲労症候群やうつ病がナルコレプシーに類似した症状を呈することもあり得ますが、典型的なMSLT所見を示しません。中枢神経刺激薬を手に入れるために臨床医を欺こうとする患者については、詐病(さびょう)や物質依存障害も考慮すべきです。
未解決事項と今後の課題
情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の10%は、脳脊髄液(CSF)中のオレキシンA(ヒポクレチン-1)濃度が正常です。これはCSF濃度が脳内オレキシン神経伝達を完全には反映しない、あるいは、情動脱力発作を伴うナルコレプシーは、オレキシン欠乏とは別の要因によって生じ得ることを示唆しています。自己免疫が介在する機序が疑われていますが、オレキシン細胞が破壊される原因は未解明のままです。オレキシンAの濃度が被験者の血中で測定できるとの報告もなされています。オレキシン欠乏を確定する血清を用いた検査法の開発がなされれば、侵襲性(※しんしゅう:医療において、生体内の恒常性を乱す外部刺激)がより低い診断方法となるでしょう。
出典
- 米国睡眠医学会. "ナルコレプシータイプ1(Narcorepsy Type1)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.100-106.
- 内山真. "ナルコレプシー". 睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会. 第3版, 東京, じほう, 2019, p.196-197.