同義語
- 非器質性過眠症
- 精神疾患に関連する過眠症
- 物質または既知の生理状態によらない過眠症
- 仮性過眠症
- 仮性ナルコレプシー
診断基準
- A
- 耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3カ月間続く。
基本的な特徴
非器質性過眠症(精神疾患に関連する過眠症)の患者は、夜間睡眠の過剰、日中の眠気、または過度の昼寝を訴えることがあります。さらに睡眠の質が悪く、回復感がないと感じることが多いようです。患者は自分の過眠症状に強く関心を集中させがちで、長い面接や心理検査の後になって初めて精神症状が明らかになることがあります。
関連する精神科疾患としては、気分障害、転換性障害や未分化の身体表現性障害があり、頻度はそれほど高くありませんが、統合失調感情障害、適応障害、人格障害など他の精神疾患も関連します。
随伴特徴
週に何度か終日寝て過ごしたり、眠る必要を感じると突然退社したりするなど、勤怠が不良であることがよくみられます。また社会的な引きこもり、無気力、活力減退などの感覚を伴うこともあります。
臨床的・病理的亜型
①気分障害に関連する過眠症
うつ病を背景とする過眠症状…非定型うつ病と双極Ⅱ型障害(軽躁エピソードを伴う反復性大うつ病エピソード)によく認められる特徴です。
季節性感情障害…日中の疲労、集中力の低下、炭水化物に対する食欲増大、体重増加が報告されています。
通常、反復睡眠潜時検査(MSLT)所見は正常ですが、臥床して長時間過ごすことが報告されています。
②転換性障害や身体表現性障害に関連する過眠症
仮性過眠症、または時に仮性情動脱力発作を伴う仮性ナルコレプシーの報告があります。
患者統計(有病率)
過眠症状を呈する症例の5%~7%が非器質性過眠症(精神疾患に関連する過眠症)です。女性は男性に比べて罹患しやすく、罹患者の年齢幅は20歳から50歳が典型的です。大うつ病患者での過眠症状の有病率は、過眠をどう定義するかにより5%から50%以上と変動幅があります。過眠症状は、季節性感情障害の患者50%以上にみられるものです。
素因・誘因(原因)
該当なし、または情報がありません。
家族内発現形式(遺伝)
特定の精神疾患(双極II型障害など)の家族内発現形式を除いて、情報はありません。
発症・経過・合併症
①平均発症年齢
男女ともに通常20代
②経過
大うつ病に伴う場合、過眠症状はうつ病エピソードの改善後も持続する場合があり、一方で持続する過眠症状は反復性うつ病の再発危険性を高めることと関連しています。
③合併症
ほとんどが社会的、職業上のもの
発達上の問題
過眠症状は、大うつ病に罹患した小児の10%から20%に生じ、不眠症状との組み合わせとなることもありますが、睡眠の質は正常にみえます。睡眠の問題はうつ病のいかなる段階にも発現し得ますが、特に急性期(※病気になり始めの時期)において顕著です。大うつ病に罹患した小児や青年期の若者のうち、不眠症または過眠症状のいずれかが明らかな患者は、一般的に失快楽症や体重減少といった、より重篤な症状を示します。
病理・病態生理
基盤となる原因は不明です。この障害をもつ患者は眠気を訴えるにもかかわらず、睡眠検査を行うと、睡眠傾向の高まりを示す医学的根拠はほとんどあるいは全くみられません。夜間睡眠の断片化が日中の眠気の一因となる患者もいます。精神疾患と過眠症状の関係が本質的に因果関係であるか不確実であるため、「精神疾患による過眠症」というより「精神疾患に関連する過眠症」という用語が望ましいかもしれません。
客観的所見
終夜睡眠ポリグラフ検査 | 睡眠の断片化を伴う臥床時間の延長が認められるのが通常です。睡眠潜時の延長、中途覚醒時間の増加、中途覚醒は頻回で延長を示す場合もあり、睡眠効率が低下します。未治療のうつ病では、レム睡眠潜時が短縮することがあります。 |
反復睡眠潜時検査(MSLT) | 睡眠潜時は正常範囲内であることが多く、主観的な日中の眠気やエプワース眠気尺度の得点の上昇とは対照的な結果です。 |
24時間連続睡眠記録検査 | 昼間も夜間もかなりの時間臥床していることが典型的であり、この行動は時にクリノフィリア(ベッド愛好者)と呼ばれます。 |
基盤となる精神科病態の診断には、精神医学的面接と評価が不可欠です。
鑑別診断
非器質性過眠症(精神疾患と関連する過眠症)は、診断のための決定的な検査方法がないため、例えば
などのよくみられる他の眠気の原因を除外することが必須です。
慢性疲労症候群…睡眠や休息をとっても消失しない持続性あるいは再発性の疲労が特徴ですが、患者の主訴は眠気というより疲労であるのが通常です。
睡眠不足症候群…日中の過度の眠気、集中力障害、活力減退と関連しますが、患者の現在の睡眠スケジュール履歴を詳細に検討することで、慢性的な断眠が明らかにされます。
未解決事項と今後の課題
主観的症状と客観的所見が一致しないため、多様な問題が生じます。患者が客観的にどれくらい眠いのか、あるいは、そうではなくて、寝たきりになるような活力低下や興味関心の欠如にどの程度苦しんでいるのか、不明確です。非器質性過眠症における過眠症状の効果的な定義を作り、それを計測する手段を開発するために、さらなる研究が必要です。最後に、なぜ過度の眠気の形での精神症状を呈する患者が存在するのか、その機序を今後の努力で明らかにしなければなりません。
まとめ
- 精神症状が「過度の眠気」という形であらわれる
- 睡眠の質が悪く、回復感がない
- 寝床で過ごす時間が長い
- 主観的症状と客観的所見が一致しない
出典
- 米国睡眠医学会. "精神疾患に関連する過眠症(Hypersomnia Associated wit a Psychiatric Disorder)". 睡眠障害国際分類. 日本睡眠学会診断分類委員会. 第3版, 東京, ライフ・サイエンス, 2018, p.127-129.