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問診の重要性

過眠症を鑑別し治療方針を決定するためには、どのような睡眠障害が存在するのかどのような条件で睡眠障害が出現しているのかを、問診、問診票などにより明らかにする必要があります。

睡眠の問題、とくに不眠について訴える患者は訴えが執拗であり、不定愁訴が多いと睡眠についての問診は避けられがちですが、実際には問診されないと睡眠の問題をかかりつけ医に訴えない患者がほとんどです。「よく眠れていますか」と定期的に問診するか、問診票を使用してください。

過眠症について訴える場合でも、患者は「最も問題である」と感じていることについて訴えるものです。患者の訴えを引き出し、これを医学的に具体化するために、基本的な睡眠障害の知識と問診法を身につけておくべきです。

眠っている状態を患者自身が把握することは困難であり、睡眠時随伴症や睡眠時無呼吸症候群などで本人が全く症状に気づいていない場合や、実際は眠っているのに全く眠っていないと感じている場合(睡眠状態誤認)があります。ベッドパートナーからの情報も重要です。

基礎疾患、基礎疾患治療薬による睡眠障害の除外とその対応

すべての身体疾患、精神疾患は何らかの睡眠障害を引き起こすものです。医療機関から処方されている薬剤、大衆薬・嗜好品・サプリメントには睡眠障害を引き起こしたり、悪化させるものがあります。問診、一般検査などにより、①基礎疾患、②処方薬、③大衆薬、④嗜好品、⑤サプリメントについて確認してください。

睡眠障害が基礎疾患によって引き起こされていると考えられる場合は、まず基礎疾患の治療と症状緩和を行いましょう。

医療機関からの処方薬の開始・増量時期と睡眠障害の出現・増悪時期が一致している場合は、処方薬による睡眠障害の可能性が高いので減量・中止、あるいは同効薬への置き換えを行いましょう。

睡眠障害をきたす身体疾患

これらの原因による過眠は、睡眠障害国際分類およびICD-11において、身体疾患による過眠症に分類されます。

疾患睡眠の問題の原因睡眠の問題
中枢性神経疾患パーキンソン病
進行性核上性麻痺
寡動筋強剛
呼吸筋運動不全
脳幹のレム中枢の障害
不眠
睡眠時無呼吸
睡眠中の異常行動
多系統萎縮症脳幹のレム中枢の障害
呼吸中枢の障害
睡眠中の異常行動
睡眠呼吸障害
てんかん睡眠中の発作
発作後もうろう状態
不眠
夜間の異常行動
睡眠時無呼吸
脳血管障害睡眠中枢の障害
呼吸の障害(中枢・抹消)
不眠、過眠
睡眠中の異常行動
睡眠時無呼吸
循環器疾患上室性期外収縮、心室性期外収縮不整脈不眠
夜間狭心症、心筋梗塞胸痛不眠
高血圧交感神経過活動?
未発見の睡眠時無呼吸
不眠、過眠
うっ血性心不全肺うっ血(呼吸困難)
中枢性無呼吸
不眠、過眠
人工透析(腎不全)レストレスレッグス症候群不眠、過眠
呼吸器疾患気管支喘息喘息発作不眠、過眠
肺気腫、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患、肺性心レム睡眠中の低換気、咳など不眠、過眠
気管支拡張、慢性気管支炎など睡眠中の喀痰不眠、過眠
消化器疾患逆流性食道炎胃液の逆流、誤嚥不眠
幽門部胃潰瘍、十二指腸潰瘍心窩部痛不眠
クローン病、潰瘍性大腸炎腹痛・下痢など不眠、過眠
内分泌・代謝疾患甲状腺機能亢進症興奮・焦燥など不眠
甲状腺機能低下症傾眠、抑うつなど
甲状腺肥大による無呼吸
過眠、不眠
クッシング症候群(副腎皮質ホルモン過剰)抑うつ、意識障害など
肥満による無呼吸
不眠、過眠
副腎不全(副腎皮質ホルモン欠乏)電解質異常、低血糖傾眠
先端巨大症(成長ホルモン過剰)中枢性・末梢性無呼吸過眠、不眠
抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH)(抗利尿ホルモン過剰)電解質異常過眠
糖尿病口渇・多尿
神経障害による疼痛
肥満による無呼吸
低血糖、抑うつなど
不眠、過眠、意識障害
婦人科疾患月経前症候群抑うつ、易刺激性など不眠、過眠
月経困難症プロスタグランジンが関係?
疼痛
不眠
妊娠ホルモン変動による?
体重増加による無呼吸
レストレスレッグス症候群
不眠、過眠
更年期障害ほてりなど不眠、イライラ、抑うつ状態
泌尿器科疾患多尿(糖尿病、前立腺肥大症、膀胱炎、尿道炎など)尿意不眠、過眠
尿失禁尿意、不快感、おむつ交換不眠
耳鼻科・口腔外科疾患鼻炎、腫瘍、アデノイド、反回神経麻痺、巨大舌など無呼吸不眠、過眠
眼科疾患重度視覚障害をきたす疾患環境の明暗周期情報を体内時計に伝達できない概日リズム睡眠障害
環境変化ICUCCU、入院、入所感覚遮断、各種ライン、機器の騒音、明暗のない環境、急激な環境変化などせん妄、不眠、昼夜逆転
手術・侵襲的処置身体侵襲疼痛、薬剤せん妄、不眠など
疼痛をきたす疾患癌性疼痛、帯状疱疹、結石、片頭痛・群発頭痛、三叉神経痛、整形外科疾患、痛風など疼痛不眠、過眠
かゆみをきたす疾患アトピー性皮膚炎、肝障害(黄疸)など瘙痒不眠、過眠
鉄欠乏性貧血をきたす疾患消化管出血、子宮筋腫などレストレスレッグス症候群不眠、過眠
(田ヶ谷浩邦:生活習慣病と不眠・睡眠障害.自律神経 46:532-543.2009より引用改変)

睡眠障害をきたす薬剤

これらの原因による過眠は、睡眠障害国際分類およびICD-11において、薬物または物質による過眠症に分類されます。

薬剤睡眠障害の種類
抗パーキンソン病薬ドパミン製剤不眠、過眠、悪夢
モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、ドパミン放出促進薬不眠など
ドパミンアゴニスト不眠、過眠
抗コリン薬幻覚、妄想、せん妄、躁状態、不安など
片頭痛治療薬キサンチン誘導体、エルゴタミン製剤不眠
抗てんかん薬バルビツール酸過鎮静、過眠、連用で不眠
バルプロ酸、カルバマゼピンなど鎮静、眠気
抗認知症薬、脳代謝改善薬不眠、眠気
抗うつ薬三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、単環系抗うつ薬過鎮静、過眠
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI不眠、過鎮静
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI不眠、過鎮静
抗精神病薬定型抗精神病薬過鎮静、過眠、せん妄、アカシジアによる不眠など
抗不安薬、抗てんかん薬、睡眠薬ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系薬剤過鎮静、眠気、睡眠時無呼吸
精神刺激薬メチルフェニデート、ぺモリン不眠
抗菌薬ニューキノロン系抗菌薬不眠
抗ウイルス薬不眠、傾眠、幻覚、興奮、抑うつ、せん妄など
抗腫瘍薬不眠、傾眠、抑うつ、せん妄、妄想など
ステロイドプレドニゾロンなど不眠、幻覚、抑うつ、せん妄、妄想など
抗アレルギー薬第1世代H1受容体拮抗薬過鎮静
第2世代H1受容体拮抗薬眠気
その他の抗アレルギー薬眠気、不眠
降圧薬β遮断薬不眠、悪夢
α2刺激薬不眠、悪夢、過鎮静
カルシウム拮抗薬焦燥感、過覚醒など
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬不眠
レセルピン過鎮静、不眠、悪夢、抑うつ
利尿薬多尿による不眠、過眠
脂質異常症治療薬アトルバスタチン、コレスチラミン不眠
クロフィブラートなど倦怠感、過眠
強心配糖体ジギタリス、ジゴキシンせん妄、不眠
気管支拡張薬β刺激薬、キサンチン誘導体不眠
鎮咳麻薬性鎮咳薬、コディン類過眠、過鎮静
制吐薬ドパミン拮抗薬、オピアト作動薬過眠、過鎮静
腸運動抑制薬眠気
下剤下痢による不眠、過眠
消化性潰瘍治療薬H2受容体拮抗薬(特にシメチジン)不眠、過鎮静、意識障害、幻覚、錯乱
プロトポンプ阻害薬、抗コリン薬眠気、過鎮静
インターフェロン製剤不眠、せん妄、抑うつなど
中枢性筋弛緩薬眠気、不眠、幻覚
鎮痛薬麻薬系鎮痛薬、非麻薬系鎮痛薬眠気、過鎮静、せん妄、睡眠時無呼吸
消炎鎮痛薬非ステロイド性抗炎症薬不眠
禁煙補助薬ニコチンパッチ不眠

睡眠障害をきたす大衆薬・嗜好品・サプリメント

これらの原因による過眠は、睡眠障害国際分類およびICD-11において、薬物または物質による過眠症に分類されます。

区分・効能など成分睡眠障害の種類
嗜好品アルコール運用エタノール不眠
紙巻きタバコ、葉巻、刻みタバコなどニコチン不眠
コーヒー、紅茶、緑茶、中国茶、ココア、チョコレートなどカフェイン不眠
大衆薬眠気・倦怠感除去薬カフェイン不眠
鎮咳エフェドリン誘導体、キサンチン類不眠
総合感冒薬、鼻炎薬、解熱鎮痛薬カフェイン
抗ヒスタミン薬など
不眠
眠気、過眠
乗り物酔い薬、かゆみ止め抗ヒスタミン薬など眠気、過眠
睡眠改善薬ジフェンヒドラミン、ブロムワレリル尿素など眠気、長期使用で依存・不眠
サプリメント記憶力増強ホスファチゼルセリン不眠
中性脂肪、コレステロール、血糖値正常化クロム不眠
健康維持ビタミンC不眠
ストレス緩和、不眠の改善セイヨウカノコソウ(バレリアン)不眠
抑うつ状態の改善セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)不眠
疲労回復、強心作用朝鮮人参(高麗人参)不眠
心臓病サンシチニンジン(三七人参)不眠
疲労回復・滋養強壮健康ドリンク(カフェイン含有)、薬用酒など(高濃度エタノール含有)不眠
健康増進、脳梗塞予防など多量の水・ミネラルウォーター頻尿による不眠

睡眠障害診断の手順

①うつ病の鑑別

②睡眠呼吸障害の鑑別

睡眠医療認定施設について

日本では、睡眠医療認定施設が不足かつ大都市に偏在していることから、すべての過眠症患者の診療を行うことは不可能です。診断に専門的検査が必要な場合・専門的治療が必要な場合は、睡眠医療認定施設に依頼してください。

一般医(GP)が睡眠障害を診療する必要性について

  • 過眠症は精神症状というよりは身体症状であると受け取られやすいので、過眠症状をもつ患者はメンタルの専門家よりも一般医(GP)を受診することが多いのです。
  • 逆に、身体疾患をもつ者では睡眠障害が多くみられます。たとえば、2型糖尿病患者の4割以上に不眠がみられます。さらに、高齢者では持病の数が増えるほど不眠の頻度が増えると報告されています。
  • このような背景があるので、一般医(GP)を受診する患者ではその半数以上の者に睡眠障害があると言われています。しかし、患者自らがそのことを医師に訴えることは少なく、また睡眠障害が治療の対象となることも非常に少ないのです。医師の側から睡眠の問題で困っていないかを患者に問診することは極めて重要です。
  • 睡眠障害があれば、次にその障害を特定して正しく診断し、必要に応じて初期治療を行うか、しかるべき睡眠医療認定医に紹介することは一般医(GP)にとっても重要なことであり、本ガイドもその手助けとなることを意図するものです。

出典

  • 日本睡眠学会 認定委員会
    睡眠障害診療ガイド・ワーキンググループ.“睡眠障害のスクリーニング法”.睡眠障害診療ガイド.第1版,東京都,文光堂,2011,10-21.