特発性過眠症
※ICSD-1出版当時(1994年)の情報です。
1.同義語とキーワード
依存性、特発性、またはノンレム(NREM)ナルコレプシー。特発性過眠症、特発性中枢性神経性過眠症。機能性、混合性、または調和性過眠症。
※「特発性過眠症」が用語としては好ましい。外傷後過眠症は含まない。
2.基本的特徴
特発性過眠症は、中枢神経系に原因があると推測される障害であり、時間的に正常または延長した主要な睡眠エピソード(すなわち夜間睡眠)と長時間(1-2時間)のノンレム睡眠のエピソードで構成される過度の眠気を伴います。
特発性過眠症は、持続性または反復性の日中の過度の眠気の訴えを特徴とし、典型的な場合1~数時間に及ぶ睡眠エピソードを伴います。過度の眠気は、夜の読書やテレビ観賞といった睡眠を許される状況でより明らかとなります。主要な睡眠エピソード(夜間睡眠)の持続は8時間以上の長時間に及ぶ可能性があります。覚醒の能力は正常のこともありますが、一部の患者では起床に多大の困難を伴い、覚醒後に見当識障害を経験することが報告されています。
3.随伴特徴
一部の患者では、ナルコレプシーの睡眠発作にみられるような発作性の睡眠エピソードの訴えを認められることもあります。しかし、これら発作性睡眠エピソードでは、そのほとんどで長時間にわたるボンヤリとした眠い状態が先行します。通常居眠りの持続時間はナルコレプシーや睡眠時無呼吸症よりも長く、短時間の居眠りでは爽快感は得られないことが一般的に報告されています。ナルコレプシーと同様に強い傾眠傾向をしばしば示すにもかかわらず、特発性過眠症ではアンフェタミンやメチルフェニデートなどの精神賦活薬に対する反応の予測がつきにくいとされています。これらの患者では、頻脈や焦燥感といった副作用出現の報告が多くあります。また、これらの薬剤により特発性過眠症の付随症状の一つである頭痛が悪化する傾向が認められています。
自律神経系の機能不全を示唆する付随症状の認められることも少なくありません。それらの症状の中には、頭痛(片頭痛様のことがある)、意識消失のエピソード(失神)、起立性低血圧、また最も共通して認められる症状である抹消血管障害の訴え(四肢の冷却を伴うレイノー現象)が含まれます。
4.経過
最初は進行性に経過しますが、診断が下される時点までには一定した状態となっていることがしばしばあります。一生にわたり持続するようにみられます。
5.素因
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6.有病率
眠気を訴えて睡眠クリニックを受診する患者のうち5-10%をこの症候群が占めるとみられています。なおこの値は、過度の眠気の診断にどの基準を用いるかによってかなり異なってくると考えられます(下記の睡眠ポリグラフ所見を参照のこと)。
7.発症年齢
ほとんどの患者の場合、受診の時点では発症からすでに数年以上経過していることが多くあります。通常、青年期または20歳代の早い時期に顕在化します。この年代は、ストレスや緊張の増大を伴いがちな生活上の変化が多く起こる時期でもあります。そのため、初期の段階での診断はしばしば困難であり、また過度の眠気を伴う他の障害と混同されるおそれもあります。
8.性比
性差は認められません。
9.家族的発現様式
家族性の発現も認められます。しかし、家族性発症例と単発例の割合および遺伝の形式を調べるためには、標準化された診断基準と手順を用いた研究が必要です。
10.病理
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11.合併症
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12.睡眠ポリグラフ所見
夜間の睡眠ポリグラフ検査では通常、質量ともに正常な睡眠の所見が得られます。ナルコレプシーのような夜間の睡眠障害は認められません。睡眠潜時は短縮しており、睡眠時間は正常またはわずかに正常より延長しています。徐波睡眠は絶対量で見ても相対的な割合でみても正常またはわずかに増加していることがあり得ます。
13.他の臨床検査所見
HLA(ヒトリンパ球抗原)の判定が診断に有用です。ナルコレプシーでは患者のほとんどがHLA-DR2陽性であるのに対して、特発性過眠症では陽性率の増加はHLA-Cw2で認められているのみで、HLA-DR2の陽性率は一般人口と差がないか、またはむしろ減少しているとの報告も見られます。
14.鑑別診断
特発性過眠症は、ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症、外傷後過眠症、周期性四肢運動障害および気分障害に伴う眠気など、眠気を伴う他のいくつかの障害と区別する必要があります。睡眠ポリグラフ所見は、特発性過眠症を、睡眠時無呼吸症、ナルコレプシー、あるいは周期性四肢運動障害と区別するうえで通常役立ちます。また、主要な睡眠エピソード(夜間睡眠)で十分眠った後では過度の眠気の客観的証拠の認められない長時間睡眠者(ロングスリーパー)とも区別する必要があります。
軽度の慢性的な抑うつに伴った眠気との鑑別はより困難となる可能性があります。特発性過眠症患者の人格のプロファイルに関する系統的な研究は行われていませんが、臨床経験からは、さまざまな形の心理学的障害が多くの特発性過眠症患者に存在することが明らかになっています。特発性過眠症の鑑別を可能とする所見は、睡眠潜時の短縮と正常な睡眠構成を伴った睡眠ポリグラフ所見が主なものです。気分変調症や関連する他の気分障害に伴った眠気の診断は、基本的に臨床評価における抑うつ症状の同定によって行われますが、心理検査も診断の助けとなり得ます。特発性過眠症患者では、主観的な不快感を否定する傾向がしばしば認められるため、抑うつ症状の有無は、興味の乏しさ、無快楽症、あるいは表情や姿勢に見られる抑うつの徴候などから推察すべきです。気分障害の家族歴を調べることも役に立つ可能性があります。
原発性の特発性過眠症であると診断を下す前に、過度の眠気をもたらす他の2つの症候群を除外しておく必要があります。第一は、小児及び成人の進行性の水頭症の初期徴候として眠気が生ずる可能性です。この段階では水頭症の他の臨床特徴が全く欠如していることもあり得ます。CTスキャン、頭部骨X線写真、および脳波検査が除外診断のために必要でしょう。第二に、頭部外傷の6~18ヶ月後に頭部外傷後過眠症が徐々に進行し、原発性の特発性過眠症のあらゆる特徴を示す可能性があります。
15.診断基準
特発性過眠症(780.54-7)
- A.長時間にわたる睡眠のエピソード、過度の眠気、あるいは過度に深い睡眠の訴え。
- B.夜間睡眠が長時間におよぶこと、あるいは頻繁な日中の睡眠エピソードの存在。
- C.発症は徐々で、多くの場合25歳未満で発症する。
- D.訴えの持続が少なくとも6ヶ月以上。
- E.頭部外傷後18ヶ月以内の発症ではない。
- F.睡眠ポリグラフ検査では以下の所見が一つ以上認められる。
- G.症状を説明し得るいかなる内科的疾患または精神科的障害も存在しない。
- H.過度の眠気の原因となる他のいかなる睡眠障害の診断基準も満たさない。例:ナルコレプシー、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、外傷後過眠症。
16.最小限基準
A+B+C+D
17.重症度基準
- 軽度:上に定義された軽度の眠気。
- 中等度:上に定義された中等度の眠気。
- 重度:上に定義された重篤な眠気。
18.持続基準
- 急性:運用不能。
- 亜急性:持続が6ヶ月より長いが1年より短い。
- 慢性:持続が1年以上。
19.文献
- Guilleminault C. Disorders of excessive daytime sleepiness. Ann Clin Res 1985 ; 17 : 209-19.
- Poirier G, Montplaisir J, Lebrun A, Decary F. hypersomnolence. Sleep 1986 ; 9 : 153-8.
- Roth B. Narcolepsy and hypersomnia. Basel : Karger, 1980 : 310.
出典
- アメリカ睡眠障害連合会 診断分類操作委員会.“特発性過眠症”.睡眠障害国際分類 診断とコードの手引き.日本睡眠学会診断分類委員会.初版,仙台市,笹氣出版印刷株式会社,1994,26-28,.
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